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ウサギのナミダ ACT 1-8 □ 「……落ち着いたかよ?」 ほれ、と言って、缶コーヒーを俺の方に差し出す大城。 今日は大城に迷惑をかけっぱなしだ。 路地裏で泣き叫んでいた俺を、何とかなだめすかして、近くの公園のベンチまで連れてきて、座らせてくれた。 ゲーセンで暴れようとした俺を止めたのも大城だし、今もこうしてコーヒーを買ってきてくれた。 「……すまん。今日は、迷惑をかけた……」 自分の声か、と一瞬疑うようなガラガラ声。 「まったくだぜ」 苦笑しながら、缶コーヒーのプルタブをあける。 そういえば、喉がカラカラだ。 俺も大城にならって、缶コーヒーをあけた。 独特の甘苦い味が喉を通り過ぎると、不思議と心が落ち着いた。 俺はやっと、大城をまともに見ることが出来た。 革ジャンに、ジャラジャラつけたシルバーアクセ。 相変わらずヤンキーに見える格好だが、優しげな視線を道の向こうに投げている。 肩には、大城の神姫・虎実が乗っている。 なんだか心配そうな表情で、俺を見ていた。 ……虎実にまで心配されるようじゃ、しようがないな、俺は。 今日の俺はどうかしている。 こんなに感情的になったのは、生まれて初めてだった。 歯止めがはずれて、自分の衝動を満たす以外のことは、どうでもよくなる感じ。 俺はかぶりを振った。 まったく俺らしくない。 「……話せよ」 「え?」 何の前触れもなく、大城が言った。 「お前とティアのこと、全部話してみろよ」 「……いや、しかし」 「そうやって溜め込むから、あんなふうに暴発しちまうんだぜ?」 「……」 「それによ……俺がお前の友達だって自惚れさせてくれや」 大城は、にっ、と歯を出して笑った。 いい奴だ、と思う。 「……俺の恥をさらすようなもんだけど」 そう前置きして、まとまらない頭をなんとか回転させながら、ぽつぽつと話し始めた。 ティアとはじめて出会ったときのこと、話したときのこと、ボディを交換し、マスターの登録をしたこと。 オリジナルのレッグパーツを武装にするために、様々な訓練をしたこと。 ティアを公園に連れだしたときに、あいつが笑ったこと……。 取り留めのない俺の話を、大城は相づちを打ちながら、辛抱強く聞いていた。 「俺は……結局俺は、自分のことしか考えていなかったんだと思う。ティアが武装神姫になりたいかどうかなんて考えもしないで……。そう言う意味じゃ、あの井山の奴と変わらないのかも知れない」 「そんなことねぇよ」 大城が、俺の方を向いて、ごく真面目な表情で言った。 「ティアが本当に武装神姫になりたくないんだったら……あんなふうに戦えるもんかよ。いつも必死で、お前のために戦っていることくらい、端から見てれば誰にでもわからぁ」 「……今回は、みんなに否定されたけどな」 俺が自嘲気味に言うと、大城は苦い顔をした。 「……すまねぇ。俺に言う権利はない言葉だったかも知れねぇ」 「わかってる、大城、お前を責めてるわけじゃない」 そう、むしろ大城は言いにくいことを言ってくれて、暴れそうになった俺を止めてくれて、今は俺の愚痴を率先して聞いてくれている。 感謝こそすれ、責める筋合いなどあろうはずがない。 だが、ゲームセンターの連中の反応もまた現実だ。 大城はわかってくれていても、他の連中はわかってくれない。 俺達二人では、もうどうにか出来る問題ではないのだ。 俺の口から、独り言のように言葉が転げ出た。 「いっそ……バトルロンドをやめるか……」 「え?」 「そうすれば、ティアは傷つかなくてすむ……ティアのことを考えれば、それが一番なんだろうな。 俺は、ティアがこれ以上貶められてまで、バトルする必要がないんじゃないかって……そう思いはじめて」 「だめだ、そんなの!!」 いきなり大声で叫ばれて、俺はびっくりした。 大城も目を見開いている。 叫んだのは、虎実だった。 怒ったような、困ったような、必死の表情で、大城の肩から俺の方に身を乗り出していた。 「ティアがバトルをやめるなんて、絶対にだめだ! だめなんだ!!」 「な、なんでだよ……」 「だって……アタシは……ティアともう一度戦うことが、目標なんだからっ!!」 ……なんだって? 「いや、そんなこと言ってもな……だっていままで、ティアと戦おうとしなかったじゃ……」 「ちがう、ちがうんだ! アタシは……っ!」 「あー、虎実はさ、ティアに憧れてたんだよ。ああいう神姫になりたいって、な」 興奮している虎実に代わって、話す大城。 ……なんだって? 虎実がティアに憧れてる? 「初耳だぞ、それ……」 「そりゃあまあ、話したのは初めてだしな」 真剣な表情の虎実とは対照的に、大城はにやにやと笑いながら言った。 「遠野、俺達がはじめてバトルしたときのこと、覚えてるか?」 「……まあ、な……」 「あんときは、俺達もはじめての負けで、頭きててよ……そりゃそうだろ、しこたま武装積んでるのに、ライトアーマー程度の軽量級に完敗だったんだから。 しばらくは、地団太踏んでたもんさ。 ……でもな、頭が冷えてくると、わかってきた。あの装備で勝てるってことが……少なくとも、俺達の奇襲をとっさにかわした技量が、どれだけすげぇのかっていうのがさ」 俺は思い出す。 虎実が、ハイスピード仕様にしたファスト・オーガを操り、飛び込んできたティアに向けて、フロントをバットのごとく振り出した奇襲。 あの時の回避はティアのアドリブだった。 大城は、缶コーヒーを一口飲み、話を続けた。 「それで……虎実は言った。 自分も、あんな風に、技で勝負できる神姫になりたい、ってな。 技を磨いて、独自の戦闘スタイルを確立して、オンリーワンの神姫を目指したい……ティアのように。 自分に納得のいく戦いが出来るようになったとき、もう一度ティアと戦いたい……それまでは、ティアとやりたくないって、そう言ったのさ」 俺は虎実を見た。 必死の表情で俺を見つめている。 「まあそれで、俺達は俺達なりの戦い方を身につけようとしてんだ。武装も、前みたいにしこたま積むんじゃなくて、戦い方に合った武装を絞り込んで……それで、今じゃランバトにも参戦してるんだぜ? ゲーセンのランバトで納得のいく結果が出せたら、改めてティアに挑戦するために」 「だからっ……! ティアにバトルをやめられちゃ困るんだ! 頼むよ、トオノ! きついのわかるけど、バトルはやめないでくれよ! もう一度、アタシとティアを戦わせてくれよ! 頼む、頼むから……!」 虎実の必死の懇願に、俺は当惑しながらも感動していた。 嬉しかった。 俺とティアが積み上げてきたことを、こんな風に思ってくれる神姫がいるとは。 「けどな……」 だけど、現実を見つめ直せば、そんな想いにも影が差す。 「そう言ってくれるのは嬉しいが……今は俺達がバトル出来る場所さえない……」 「……だったら!」 虎実は決然と言い放った。 「アタシはランバトで一位を取る! 三強も全部倒して、あそこで一番強い神姫になってやる! それで、ティアをバトルの相手に指名する! それなら、誰も文句は言えない……言わせない!!」 それはまるで誓い。 強い強い決意だった。 そこまでティアを信じてくれるのか。 「ありがとう、虎実……」 その想いを無視することなんてできない。 バトルロンドのプレイヤーであるならば、その想いに応えなくてはならない。 「俺達は……バトルをやめない。虎実と戦うまで、諦めない。 そして、虎実が納得のいく戦いが出来るようになったとき、必ず挑戦を受ける。 ……約束するよ」 「トオノ……」 つぶやいた虎実の瞳から、雫が一筋、小さな頬を流れ落ちた。 「虎実……?」 それが合図だったように、虎実の両の瞳から涙の雫が次から次へと溢れ出てきた。 ついに顔をグシャグシャにして、虎実は泣き出した。 「ティアが……ティアが、かわいそうだ……あ、あんなこと……されてっ……つらくないはず……ねぇしっ……な、なのに……あんなこと、言われて……っ おかしいだろっ……ゲーセンの……連中は……わ、わかってるはずだろっ……ティアと戦えば、戦ったヤツは、わかるはずなんだ……! すげぇ頑張って……身につけた、技なんだって…… な、なのに、あいつらっ……ちくしょうっ、ちくしょうっ……!!」 「虎実……」 悔しかったのは、俺だけじゃなかったのか。 泣いている虎実に、自分の姿がかぶる。 自分の大切な者のために、何もしてやれない無力さ。 今の俺と虎実は、きっと同じ想いだ。 どうしようもない絶望の中でも、味方はいるのだ、と俺の胸は熱くなった。 泣きじゃくる虎実に、せめて髪を撫でてやろうと、右手を伸ばし…… 「うわぁ! なんだこれは!?」 見慣れた手はそこになかった。 異様に膨れ上がっており、色は紫色、まさに異形と言うべき手がそこにある。 これが俺の手とは、到底信じがたい。 だが、 「い、いたたたたたっ……!」 確かにその異形の手から、激痛が伝わってきた。 「お、おい……トオノ、大丈夫か!?」 「あーあ、ひどい手だな。骨折もしてるかも知れねぇ……医者行くか」 いまだに涙を瞳に溜めたまま、虎実は心配そうな声を上げ、大城はさもありなんと頷きながら、立ち上がった。 しかしこの痛みはやばい。 今までは気が高ぶっていたせいか気にもならなかった。だが、一度認識してしまうと、ひどい激痛に目がくらんでしまっている。 俺は、大城の助けを借りて、なんとか近所にあった総合病院にたどり着くことが出来た。 治療してくれた医者の先生に、「自分で壁を殴って怪我をした」と言ったら、こっぴどく怒られた。 別れ際、大城はこう言った。 「俺達はお前達の味方だ。 何もできねぇかも知れんけど。でも、俺達の力が必要なら、遠慮なく連絡しろよ」 笑いながらそう言った。 ……俺の方こそ、友達だと自惚れさせてほしい、いい奴だった。 ■ 今日の自主訓練は最低だった。 マスターから出された課題は、どれ一つとしてクリアできていない。 それどころか、簡単な基本動作さえ、ままならなかったりする。 何度も転んで、痛い思いをした。 でも、本当に痛いのは身体じゃない。 昨日のゲームセンターでの出来事。 わたしが恐れていたことが、最悪の形で起きてしまった。 雑誌に掲載されて、公表されるなんて……考えもつかないことだった。 わたしの過去が、マスターに迷惑をかけた。ゲームセンターの人達は、手のひらを返したように、マスターに冷たくあたった。 あんなに仲が良かった久住さんも、記事を見て逃げてしまったという。 わたしのせいだ。 わたしが、マスターを不幸に突き落とした。 そして……マスターのあの目。 マスターは、わたしのことをどれだけ恨んでいるだろう、蔑んでいるだろう、やっかいに思っているだろう……。 わたしは、生まれて初めて、心が壊れそうなほど痛い、という思いを味わった。 わたしは怯えて、謝ることしかできなかった。 せめて、いつものように出された課題は、いつもよりも必死で頑張ろうと思ったのだけれど。 ……身体が言うことを聞かなかった。 怖かった。いままで積み上げてきたものが、もう無意味になってしまうのではないか、という思いが胸をよぎった。 そのたびに、わたしはトリックに失敗し、転んだ。 マスターに迷惑をかけるだけじゃなく、教えられたことも満足に出来ない。 わたしはもう、マスターにとっては何の価値もなく、ただのやっかい者に成り下がってしまった。 マスターも今度こそ、わたしに愛想を尽かしたに違いない。 わたしは、どうなってしまうのだろう。 あの、元お客さんだった人のところに連れて行かれるのだろうか。 お店に戻されるのだろうか。 もしかすると、電源を落とされたまま、二度と目覚めることはないのかも知れない。 そのいずれもが、怖くて、悲しくて、わたしはまた泣いてしまう。 思い返せば、ああ、わたしは……マスターとの戦いの日々が幸せだったのだと……それを手放さなくてはならないことが悲しいのだと、ようやく理解したのだった。 「ただいま……」 玄関の扉が開いた音に、わたしは顔を上げる。 「お、おかえりなさい、マスター……」 マスターの声はあまり元気がなかった。 何かあったのだろうか……。 姿を見せたマスターを見て、わたしは驚いた。 「どうしたんですか、右手……」 「ん、あぁ……」 マスターは右手を軽く挙げる。 彼の右手は、包帯でぐるぐる巻きにされていて、元の手が全く見えていない。 なにかギプスのようなものをしているらしく、左手と比べてもずいぶん太くなっていた。 「大丈夫。なんでもない」 なんでもないはずないじゃないですか。 でも、わたしに問いただすことは出来なかった。 そんな権利はないのだ。 ただ、マスターのことが心配で、困ったように見つめるだけ……。 マスターがわたしを見た。 「そう、心配そうな顔をするな」 マスターはかすかに笑った。 でもそれは、いつもと違って、自嘲のような苦笑だった。 マスター……その怪我も、わたしのせいですか。 わたしがマスターと一緒にいるから、傷つくんですか。 わたしの胸に、また耐えがたい痛みが走った。 わたしが、マスターに愛想を尽かされることよりも、つらくて悲しいことは。 マスターが自分のせいで傷つくことだと、今ようやく気がついた。 次へ> トップページに戻る
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{どうでもいい話し合いと、真面目な話し合い} アンジェラスの視点 ご主人様は愛車のスカイラインを運転してアンダーグラウンドに向かっています。 私はご主人様の右肩に座っているのですが…。 ちょっと車の中は居た堪れない空気になっているのですよ。 何故かと言いますと。 「ねぇーご主人様。今日はいったいどのようなご用件ですか?」 「………」 ご主人様は運転に集中しているのか、さっきから私が声を掛けてもうんともすんとも答えてくれないのです。 ズーッと無言でズーッとシカトです。 別に機嫌が悪いとかじゃないと思うのですが…何かこぉ~、考え事をしているような感じですかね。 今はそれだけの事しか考えられないみたいなぁ。 ご主人様がこんな感じになってしまった原因は、あのアンダーグラウンドの住人、ご主人様が言う通称オヤッさんその人である。 帰宅したご主人様は私とまた煙草の事で口論してる途中、オヤッさんから電話がきて、ご主人様が電話に出てのですが。 電話している時間が経つごとにご主人様の顔は厳しくなり真剣な表情に変わりました。 そして電話が終わった後の私に向けられた言葉が一言、『行くぞ、アンジェラス』です。 電話の内容も何も言わずに家を出るご主人様に私は『はい!』としか言えず、付いて来ましたのが今の状況に繋がる訳です。 車を走らせるご主人様は無言で前を見続ける。 私はそんなご主人様の顔を見る事しか出来なかった。 そうこうしている内にアンダーグラウンドの町に入りご主人様は駐車場に入る。 駐車場の適当な場所で車を止めて車から出る。 その時でした。 ご主人様が低い声で私にこう言いました。 「これから起きる事は何事にも驚くな。後、俺の命令に絶対に従えよ。解ったな?」 「は!?はい!」 その時のご主人様の顔は怖かったです。 いつも苦笑いしたり、ニヤつきながら私を褒めてくれるご主人様じゃなかった…。 まるで別人のようでした。 顔はご主人様でも違うご主人様みたいな…。 冷酷で人間の感情が無いよな感じ。 「解ったのならいい。今から一言も喋るな。黙って俺について来い」 無言のまま私は頷いた。 するとご主人様は私を一瞥してから駐車場から出た。 アンダーグラウンドを歩き数分。 神姫センターが見てきました。 今日はここに行くのでしょうか? 確認したいのですけれど、ご主人様は私に『一言も喋るな』と言ったので喋る事が出来ません。 …いったいご主人様はどうなちゃったでしょ。 あ、神姫センターを横切りました。 今日はここに用は無いみたいです。 じゃあ何処に行くんだろう。 そして更に数十分が経ちました。 ご主人様は一つのバーに入りました。 お酒を飲む場所とデータでは知っていますが…。 私が実際に見たバーとデータで理解していたバーとは全然違いました。 やっぱり実際に行くのとデータだけでは、経験値が全然違いますね。 「お、時間通りに来たな。おーい、閃鎖ーこっちだー」 「………」 通称、オヤッさんの人が一つの卓上のテーブル近くの椅子に座っていました。 左右に二人づつ座れる場所です。 そしてそのテーブルの周りにグルリと円状に囲んだ怖い男の人達がズラリといました。 チンピラとかヤクザの名がつきそうな人達ばかりです。 ご主人様はそんな人達の間を入ろうとすると男の人達は十分に歩けるスペースを作り退く。 まるで歓迎されているような感じ。 それと同時にご主人様がその間を抜けると逃げられない様にがっしりと周り固める。 正直、もう私はビビッています。 「まぁ掛けて下さい」 「…はい」 オヤッさんの反対側に座っていた二人のいかついオジさんが態々立ち上がり座る事を勧める。 ご主人様は低い声で答えオヤッさんの隣に座っり、いかついオジさん達も同時に座る。 ご主人様は両手をポケットに突っ込んだまま。 礼儀がちょっとなってないと注意したいですが、今は喋っちゃいけません。 といいますか、こんな張り詰めた空気の中で喋りたくありません。 「さて、役者が揃った所で話しを始めますか」 一人のいかついオジさんが先に喋りだしました。 「まず今回、閃鎖さんをお呼びにしたのは我々の不始末を言いたかったわけです」 「どのような不始末ですか」 オヤッさんはご主人様の代弁をしてるように答えた。 「まずこれを見てください」 もう一人のオジさんが頑丈そうなアタッシュケースを取り出してきて中身を見せてくれました。 中身に入っていたのは、数枚の何かのリストみたいです。 ご主人様は無言でそのリストを全部受け取り目をとおす。 私もご主人様の右肩にズーッといるのでついでに見せてもらい、そしてすぐにその紙に書かれてるリストがなんなのか分かりました。 この紙は記されてる内容はすべて武装神姫の違法改造武器です。 しかも武器の全ての製作者覧がご主人様の『閃鎖』という名前で埋め尽くされていました。 「見ての通り。我々も色々な事に手を出して仕事をしている訳ですが…今回、この武装神姫で一つ閃鎖さんにご迷惑をかけてしまった。おい、アレを」 「はい」 命令したオジさんがもう一人のオジさんに命令し、次は海外旅行で行くときに使われる大きなハードケースを出してきました。 そしてハードケースを開けると。 「ン~~~~!?!?」 一人の男の人が両腕両足を頑丈な紐で縛られて口には叫べないようにガムテープが張られています…パンツ一丁の姿で…。 「うちの者です。こいつは自分が儲けるように無断で閃鎖さんの商品を無断で売り捌いていたんだ。オマケにうちの島ならともかく、他の島で売ってやがった」 「おかげで、他の島の連中達が怒ってうちの組にけしかけてきて大変でした」 「治まりはついたのですか?」 今度はオヤッさんが冷静沈着に言う。 いつも見ていたオヤッさんも別人を見てるようです。 「そこら辺はご心配なく。うちの組がそれなりの金額を譲渡したので。赤字なのは変わらないが…」 「そうですか。ではこいつをどうするんですか?」 「この者の処分は閃鎖さんの言葉で決まる。生かすのも殺すのも閃鎖さん次第です」 「………」 ご主人様はバサッとリストされている紙を全て机に置き煙草に火をつけた。 「…そのゲス野郎にチャンスを与えてやる。だが、もし次にヘマしたら命は無いと思え、と言っとけ」 「生かしておくのか?」 「人間、一度は欲に負ける事がある。けどもう一度同じ過ちを繰り返したらそいつは学習能力が無い訳だ。そんな人間は生かしとく必要は無い。この町で生きていくには学習が必要な事だからな」 「そうか。閃鎖さんがそう言うなら分かった」 「これで俺の用事は済んだか?」 「いや、もう一つある。この件でうちの懐が少し寂しくなっちまったものだから、少し閃鎖さんの商品を取り寄せをしたい」 「なら、オヤッさんに言ってくれ。俺は開発者なのでね。帰ってもいいか?」 「そいう事ならもう結構です。この度は申し訳なかった」 「気をつけて仕事してくれよ」 そう言ってご主人様は立ち上がり店をでようとした。 「おまえら閃鎖を送れ」 「いい、一人で帰れる。後は頼むぜ、オヤッさん」 「おう、任しとけ」 そしてご主人様と私は店を出た。 …。 ……。 ………。 ご主人様の車に乗って数分が経ちました。 丁度、アンダーグラウンドの町から出た頃です。 その時でした。 「今日は悪かったな」 「エッ?」 ご主人様が私に話してくれました。 最初みたく冷酷な声ではなく、温かみがある声でした。 「なんとなく…解ったろ?俺が今日、お前にきつく言った言葉がなんなのか」 「はい…。でもなんであんな風に言ったのですか?」 「その言い方だと、まだ少し解ってないみたいだな」 煙草に火をつけ運転席側の窓を全開にするご主人様。 煙は車から外に出て消えていく。 「お前には必要だと思ったからだ。俺が今どいう立場にいるのかちゃんと理解しているのかな…てな」 「立場?」 「そう。お前、もし俺がなにも言わずにあんな所に行ったらどうしてた?」 「それは…多分、ご主人様を止めて無理矢理にでも連れて帰ろうとします。ご主人様にはなるべく普通の生活して欲しいですし」 「…はぁ~。やっぱりそんな事かぁ」 溜息を吐き煙草を右手で持ちながら運転する。 「アンジェラス。俺はな…普通の大学生、天薙龍悪の顔をと今日見せたヤクザと商売している閃鎖の顔を持っている」 「二つの顔ですか?」 「そうだ。それに俺はどちらかというとこっちの世界の住人に近い」 「そんな!?ご主人様は普通の人です!」 「ヤクザと仕事上関係をもってる奴がか?」 「………」 「おやおや、黙まりか?中臭い設定だが、残念だけどこれは現実だ」 私は衝撃の事実を知ってしまい俯く。 まさかご主人様は表の世界の住人でもあって裏の住人でもあるという事に。 今はまともにご主人様の顔を見る事ができません。 「幻滅したか?嫌いになったか??別に俺は構わないぜ。今日はあえてお前を連れて来たんだ」 「…あえて…ですか?」 「あぁ。アンジェラスには俺の全てを見て欲しかったんだよ」 「全て…」 私はやっとの思いで顔を上げご主人様の顔を見れた。 ご主人様の顔は苦笑いしていました。 「なんて言えば良いんだろうなぁ?アンジェラスなら俺の秘密を教えてもいいかな、と思っちゃうんだ。上手くは言えないが多分俺はお前に心を許してるんだろうな」 「私だけに心を許す…それってつまり」 「んぅ~、まぁそのなんだなぁ。俺にとってアンジェラスは特別な存在というか信頼し合える者同士というか…あーもうなんて言えば解らん」 「そうですか。私だけが、ご主人様と特別な関係を持っているのですね!」 「そいう事にしといてくれ。だぁー、なんか恥ずかしいぜ」 「クスクス♪」 私は笑いました、心の底から。 嬉しい気持ちでいっぱいです。 だって、ご主人様から『お前だけに心を許す』なんて言って頂けたのですから。 これで私はまた新しいご主人様の姿を見れました。 もっと色々なご主人様が見てみたいです。 「笑うな。ガチで恥ずかしいんだから!」 「クスクス♪すみません。でも嬉しくて…クスクス♪」 「だから笑うなって!」 そう言うご主人様も笑っているじゃないですか。 さっきまで気まずい雰囲気だったのに今はお互いを理解しあって笑っている。 嫌な一面も見てしまいましたが、今日はまたご主人様との距離が近くなったような気がします。 ご主人様、私はいつでもご主人様と一緒ですよ。 今日からまた一つよろしくお願いしますね、私が大好きなご主人様♪
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「ある日」 この町に来てから三週間が過ぎた。 アタシがこの町に居られるのも、後一週間と少しだけ。 なのにすっかり当初の目的なんて頭の中から無くなり、アタシは今日も公園の木陰で彼等が来るのを待っている。 それにしても暑い。 木々の陰により和らいだ熱の下にありながらも、それでも暑いと感じるのだから日向に居る人たちにはさぞ暑いことだろう。 もう暑いじゃなくて、熱い。 温暖化も二十一世紀初頭に比べればその悪化具合もだいぶ緩やかになってはいるけど、それでもその傾向がマイナスに転じてはいない現在。亜熱帯と化した日本の夏はけっして住み良い環境ではない。 空気が流れた。 体にまとわり付いた汗が、その風に反応して体の熱をほんの少しだけ、奪い去る。 そしてその風と共に、待ち人がいつもの様に現れた。 「また、居たのか。案外お前も暇だねぇ?」 開口一番、憎まれ口を叩くこの男に、会いたくて堪らないのだと自覚したのはいつだったか? 「なんだか今日はどっかのお姫様みたいな格好だなっ!」 今まで自分とは遠くにある存在と思っていた小さな少女も、こんなにも愛おしく感じる。 「こんなに暑いと、スカートだってはきたくなるの。それに帽子だけじゃこの日差しは遮れないでしょ!」 今日のアタシのいでたちと言ったら、フリルのあしらわれた薄手の白いワンピースに白い日傘と、一体何時代だよ! って突っ込みを入れたくなるくらいの時代錯誤な格好だった。 正直照れくさい。 「あぁ~あ。口さえ開かなきゃ、深窓の御令嬢でも通じるのにな」 意地の悪い笑みで男は言う。 「ちょっとー。いくらアタシでも傷つくぞ」 「でもカワイイじゃんかー。ちょっと憧れだぜっ!」 「まて、お前がこんな格好したらそれこそ喋るな! って話になるぞ」 「おう! それはこの刹奈ちんがとってもカワイイって言ってるんだよなぁ?」 かわいい仕草をし、しかしその仕草を台無しにする口調でその小さな神姫は問う。 「だから色々台無しなんだよお前は」 深々とため息をつく夢絃を見て、アタシは思わず大きな声で笑ってしまった。 「……ここにも台無しが一人」 失礼だぞ! 「やっぱり今日もあの時みたいなのは起こらないね」 ヴァイオリンを弾き終えた夢絃にアタシは言った。 「あれって、結局なんだったんだろうなー」 アタシの方に跳ねて来た刹奈は、そう言うとアタシの肩に腰を下ろす。 「ね……ねぇ、体少し熱いけど大丈夫?」 刹奈の座ったアタシの肩が、少しだけ熱を感じる。 「だーいじょうぶなのさー。外気が熱いから、ちょこっとだけ廃熱がままならないだけ。今日も一生懸命踊ったもんなー」 そう言うと刹奈は花が咲くような笑みをアタシに向ける。そして小さな声で「アリガト」と言った。 「あぁ! もう! 刹奈ちんはかわいいなぁ」 もうホント抱きしめたい! ……肩に座っている神姫を抱きしめるのはムリだけど。 「……なんだかんだでお前も結構神姫好きになってきたよな」 ヴァイオリンを丁寧に片付けて、夢絃はそれとは別に持ってきていたリュックを開ける。 「これ、やるよ」 そう言ってそのリュックから取り出した箱を、アタシに差し出す。 「ちょっ……!」 どう見てもそれは武装神姫のパッケージで。 いくらアタシが神姫に疎いからといっても、これが高価なものである事くらい知っている。 ……親友であるセツナのおかげかもしれないけれど。 「こんなの受け取れる訳ないじゃん!」 勢いよく立ち上がってしまう。肩に座っていた刹奈が振り落とされまいとアタシの髪にしがみついた。 「ちょっ! 待てって。……夢絃! 話がいきなりすぎなんだって!!」 「あ? あぁ、確かにそうか」 「朔良もさ、とりあえず話だけでも聞いてよ。判断はそれからでも遅くないだろ?」 刹奈のその言葉に促される形で、アタシは静かにまた座っていたベンチに腰を下ろす。 「えっとな、実を言うとコレ、余りモンなんだ。でもさ、中古屋とかには売りたくねーし、ネットオークションなんて言語道断。だったら俺が気に入った、神姫が好きそうな奴に譲りたいって思ったんだよ」 「余り物って…… それでもこんな高価なもの貰えないよ」 アタシの覚え違いじゃなければ、神姫一体でPC一揃えが購入できるはず。そんな物を「貰えてラッキー♪」とか簡単に言えるほど無邪気じゃない。 「でも、俺はお前に……『朔良』に貰ってほしいんだ」 真剣な眼差しで、まっすぐにアタシを見て、そして初めてアタシの名前を呼んで―― そんなのズルイ。そんなことされたら、絶対に断れない。 「う、ん。……わかった」 熱くなる顔を隠すようにうなだれて見せる。 上手くごまかせたかな? そんなアタシの心配をよそに、夢絃はアタシに一歩近づく。 そして少しだけかがんで、アタシの傍らに神姫の箱を置いた。 「それならさ、明日駅前で会わないか? ここじゃセットアップ出来ないから、神姫センターにでも行こう」 「え? そんなに急がなくても……」 アタシはそう言って顔を夢絃に向けた。 その途端に―― 夢絃の唇で、アタシの口が塞がれる。 それは本当に僅かな瞬間で。 直に立ち上がった夢絃はくるりとアタシに背を向ける。 「明日十時に駅前の広場で。……遅れるなよ」 と言うと振り向きもせずにそのままリュックとヴァイオリンケースを持ち上げる。 「にししししー☆」 耳元で刹奈は笑うと、そのままアタシの肩から飛び降り、そのままの勢いで夢絃の元へ走る。 そんな二人をアタシはただ真っ赤になって見送る事しかできなかった。 そのアタシの手元には、MMS TYPE DEVILと書かれたパッケージが残されていた。 戻る / まえのはなし / つぎのはなし
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アイドルは神姫を救う? 前編 あの試合から1ヶ月がたった。恒一はいずると話すことが少なくなり、毎日のように研究所に通っていた。 (恒一、シュートレイがやられたダメージが大きいのが相当ショックだったんだろう…) いずるは彼の姿を見て心配になっていた。 あの試合の後、シュートレイは集中治療室に運ばれた。一命を取り留めたものの、彼女の精神的ダメージは思ったよりも深刻だった。あれ以来、虚ろな状態で何も反応を見せなくなってしまったのだ。おそらく自分が破壊されるイメージが脳裏に焼きついて、トラウマになっているのだろう。日常生活もままならない状態なので、、シュートレイは今もリハビリを続けている。 今日も恒一は小百合の下へ足を運んでいるのだろう。いずるはそんな彼のことを気にかけていた。 「どうしたのいずる、そんなに深刻な顔して」 家に帰ってきたいずるを、ホーリーが出迎えた。彼女もそのことが心配でしょうがないのだ。 「恒一の事だよ、あの事件から急に元気がなくなってね」 「ああ、恒一のことか。それで恒一は今どうしてるの?」 ホーリーの質問に、いずるは少し落ち着いて答えた。 「小百合さんの研究所に通ってシュートレイの看病さ。どうやら回復が遅れてるみたいなんだ」 「シュートレイはもう傷は治ってるんだよね?それなのに、どうして恒一のもとに帰らないの?」 「それは、彼女の心が病んでるからなんだ…」 重々しい言葉を放ついずるを見て、ホーリーは少し寂しそうな顔になった。 「病んでるって、そんなに重病なの?だったらホーリーたちもシュートレイを元気付けてあげないと」 「そうだな、だったらあとでお見舞いにでも行こうか」 そのとき、玄関のチャイムが鳴った。 『すいません、宅急便です』 どうやら宅急便の人が荷物を届けに来たみたいだ。いずるは玄関に行って荷物をとりに行った。 荷物の送り主はいずるの実家からだった。その中身は米やラーメンなどの食料品や、衣類などの日用品だった。 「母さんの奴、こんなもの送ってくるなんて」 箱の中を一通り出し終わったいずるは、包装に包まれた箱があることに気付いた。 「あれ、こんなものが…」 どう見ても怪しい包装箱を、いずるは恐る恐る開けてみた。 「…これって、神姫か…?」 包装を取り除いた箱に書いてあるのは、『武装神姫』の文字があった。どうやら親は神姫も一緒に送ってきたようだ。 「どうしてうちの親が神姫のことを知ってるんだろう?」 いずるはその中身を開けてみることにした。その中身はアイドルタイプの神姫とその付属パーツ、起動ディスクとクレイドル、そして手紙が入っていた。 「ええと…何々…」 いずるは手紙を読んでみることにした。 『いずるへ、お前も一人では寂しいだろうから、最近はやっている友達ロボットを送る事にした。最初コレを見たときはビックリしたよ。何せ胴体がない生首状態だったんだから。慌てて胴体を買ってきて繋げたよ。でもまだ起動してないから安心して。あと起動に必要なものは出来る限り用意したつもりだから。このロボットがお前の生活に潤いを与えてくれる事を祈ってるからね。あと、年に一回でもいいからうちに帰ってきなさいよ。 母より』 「…」 いずるは暫くの間言葉が出なかった。その後我に帰ると、改めて母が送ってきた神姫を手に取った。 「相変わらず変わってるよなあ、母さんは。よく父さんが止めなかったもんだ」 さっそくいずるはパソコンに神姫を繋ぎ、起動ディスクを入れた。 「起動の仕方は小百合さんから教わってるから大丈夫だ」 いずるはもしものときに再起動できるように小百合から起動のノウハウを教えてもらっていた。そのため、初めての起動でもある程度のことは知っているのだ。 「よし、これで準備OKと…。さっそく起動させるぞ」 起動ボタンをクリックするいずる。すると神姫の目が少しずつ開いていった。 「…起動確認しました。始めまして、あなたがわたしのオーナーですね」 起動成功。続いていずるはオーナー認識のための手続きを始めた。 「そう、私は都村いずる。君のオーナーだ」 神姫はにこっと笑い、いずるのことをオーナーと認識した。 「それでは、わたしに名前を付けてください。あなたのお気に入りの名前を付けてくださいね」 いずるは悩んだ。名前を決めていなかったのだ。 「そうだな…、どうしようか…」 ホーリーの時は思いつきでつけたのでそんなに悩む事はなかったのだが、今回は状況が違う。いずるは悩みながら名前を考えた。 「…よし、きみの名前はミルキーだ」 いずるは彼女の名前を「ミルキー」と名づけた。かわいらしいと思ったからだ。 「ミルキーですね。登録しました。始めまして、わたしの名前はミルキーです。よろしくおねがいしますね」 やっと登録が終わった。これで彼女もいずるのパートナーになったのだ。 「ねえいずる~、もう入っていい?」 隣の部屋からホーリーの声が聞こえてくる。もう痺れを切らしているのだ。 「もういいよ。いま登録が終わったところだ」 登録終了を聞いたホーリーは喜んで部屋に入ってきた。 「ホーリーにも妹ができたんだね!やった~!!」 大はしゃぎするホーリー。それを見ていたいずるはホーリーに注意した。 「お前はこれからお姉さんになるんだから、見本になるようなことをしないとダメじゃないか。ほら、ミルキーが笑ってるぞ」 いずるが指差した先には、くすくすと笑うミルキーの姿があった。 「あ、ごめんね。つい嬉しくなっちゃって、こんなことしちゃった」 「いいえ、こんなに喜んでくれて、わたしも嬉しいです。これからもよろしくお願いします、ホーリーお姉さん」 ぺこりとお辞儀をするミルキー。意外と礼儀正しいのかもしれない。 「オーナーさんもよろしくお願いしますね」 「いずるでいいよ、ミルキー」 「では、改めてお願いします、いずるさん」 ミルキーはにっこりと微笑んだ。 それからというもの、いずるはミルキーの育成に全力を注ぎ込んだ。ホーリーも一緒にミルキーのお姉さんになるように努めた。 「ええと、これはヒーリングの効果があるんですね」 「ああ、これは回復効果がある能力だな。これで相手の神姫の精神的ダメージを回復できる、と説明に書いてあるな」 「あと、こちらの本のページにはアロマテラピーと書いてありますが、これはどのような効果があるのですか?」 ミルキーは順調に見たもの、聞いたものを吸収し、自分の知識や経験にプラスしていく。そのスピードはいずるも驚くほどだった。 「すごいね、ミルキーは。どんな知識も自分の物にしちゃうんだもん。ホーリーもそんな能力があったらいいのに」 うらやましがるホーリー。しかしミルキーはそんな彼女に励ましの言葉を送る。 「ホーリーお姉さんもいいところがあるじゃないですか。わたしにはできないことがいっぱいありますし」 「でも起動してそんなに経ってないのに、こんなに覚えちゃうんだからすごいよね。このまま行けばアイドルじゃなくてナースになったりして」 三人がお世辞を言い合っているとき、玄関のチャイムが鳴り響いた。 「お客さまですね」 「そうだな、ちょっと見てくるからここで待ってるんだぞ」 いずるは玄関に来て客を迎え入れた。 「やあいずる、久しぶりだな」 客は恒一だった。心なしか少し元気がないように見える。 「恒一、お前大丈夫か?」 「ああ、今のところはな…。今日は少しばかり気分転換したいと思ってね」 いずるは恒一を部屋へ招きいれた。中に入った恒一は見覚えのない神姫=ミルキーに注目した。 「お前、新しい神姫を購入したのか?」 「まあね、話せば長くなるけど…」 いずるはミルキーを手に乗せて、恒一に見せた。 「始めまして恒一さん、わたしはミルキーといいます」 「は、始めまして…俺は木野恒一。よろしく」 なぜか照れる恒一。彼女のかわいらしさにドキドキしているのかも知れない。 「ところで恒一、シュートレイの様子はどうなんだ?」 いずるがシュートレイのことを話題に持ち込むと、恒一の表情が曇った。 「それが…」 どうやらシュートレイは前と変わらない様子らしい。 「そうだ、まだ時間があるからシュートレイのお見舞いに行ってみようか?」 いずるの提案にホーリーとミルキーは賛成した。 「いこう、シュートレイのことが心配だし」 「わたしもシュートレイさんに一目会ってみたいです」 「よし、決まりだな。みんなでシュートレイのお見舞いに行こう」 元気のない恒一を尻目に、いずる達は神姫研究所へ行く事にしたのだった。 電車に揺られて数十分、いずるたちは町外れにある神姫研究所にやってきた。この隣には、神姫たちのメンテナンスや療養をする『病院』が隣接している。シュートレイは神姫研究所付属の病院に入院しているのだ。 「知らなかったな~、ここの隣に病院があるなんて」 「私もここの隣に新規の病院があるなんて、つい最近まで知らなかったんだ。何せ、規模が小さいからね」 さっそく中に入ろうとする一行だが、入り口で誰かに呼び止められた。 「あら、いずる君に恒一君。みんなでシュートレイのお見舞い?」 声の主は小百合だった。彼女も病院に出入りしていたのだ。 「小百合さん、こんにちは。これからシュートレイの様子を見に行こうと思って」 「そう、でも酷なことをいうけど、彼女の回復はかなり遅れてるから、暫くはこのままの状態が続くと思うわ」 少し残念そうに現状を語る小百合。その直後、いずるの肩に座っているミルキーに目がいった。 「あら、この神姫、ニューフェイスね。新しく購入したの?」 「始めまして小百合さん、わたし、ミルキーと申します」 すかさず挨拶するミルキー。それを見た小百合は感心した。 「あらあら、礼儀正しいのね。ところでこの神姫、どうしたの?あなたはあまり神姫のことが好きじゃなかったはずだけど」 「話せば長くなりますが…」 いずるはミルキーがどのように自分のマスターになったのかを説明した。 「あははははっ、そう、そんなことがあったの。さすがいずる君のお母さんだわ。自分の息子に神姫を送るなんて」 「しょうがないですよ、送り返したら何か言われそうですし。それに、もう一人増えても家族が増えるだけですから」 いずるの意外な言葉に、小百合は思わずふふんと鼻笑いした。 「いずる君、最初会ったときとは印象がまるで違うわ。これもホーリー効果、ってことかしら」 ちょっと意地悪げに言う小百合。 「そ、そうですか…」 「そう、それにしてもこのミルキーちゃん、結構賢そうね。やっぱりオーナーに似てるのかしらね」 ミルキーをまじまじと見つめる小百合。 「それで、この子の成長ぶりはどうかしら?上手くいってる?」 「はい、いつも借りてきた医療関係の本などを一生懸命読んでます」 ミルキーの急激な成長振りを説明するいずる。そのとき、急になにかがひらめいた感じになった小百合は、いきなりいずるに話しかけた。 「そうだ、シュートレイに会う前にちょっと研究所に寄ってほしいの」 「研究所って、どうしてですか?」 「いいから、ちょっと説明することがあるのよ」 小百合はいずる達を無理やり研究所に引き込んだ。 「で、何をするつもりですか?」 「さっきミルキーが医療関連の本を読んでたと言ってたわね。もしかしたら彼女に精神医療の知識があるんじゃないかしら」 「でも、読み始めてからまだそんなに時間が経ってませんし、もしあったとしても、治療なんてできるかどうか…」 「まあ、これを見てからでも決めるのは遅くないわ」 小百合は引き出しの奥から小さい箱を取り出した。 「これは…、何ですか?」 「これは精神医療用の『ヒーリングバトン』といってね、神姫や他のロボットの精神を安定させる、いわば『精神安定器具』といったものね」 これを見た恒一はすぐさまバトンの側に近づいた。 「どうしてこれがあるのを黙ってたんだよ?」 「これは普通の神姫では扱えないの。使い方がシビアだから、ある程度医療関係の知識がないと使えないのよ」 ミルキーはバトンが入った箱の近くに近づき、バトンをじっと見つめた。 「いいんですか、わたしがいただいても?」 「それを持つかどうかはあなた次第よ。もしバトンを持つつもりなら、あなたの能力を借してほしいの」 小百合はバトンを取り出した。 「…どういうことなんですか?」 ミルキーの質問に、小百合はこう答えた。 「いずる君から聞いた話だと、あなたはある程度だけど医療関係の知識を身につけてるようね。それに加えてあなたの能力は回復系、つまり癒しの力があるから、相性は抜群なのよ。だからお願い、シュートレイを助けてあげて」 ミルキーは暫く考えてから、答えを出した。 「分かりました、わたしにしかできないことならばやって見ます」 「それじゃあ、これを使えばシュートレイはもとに戻るんだな?」 再び割ってはいる恒一。しかし小百合は少し心配そうに答えた。 「恒一君、たとえ元に戻らないとしても、後悔しないことを約束できる?この作業はとてもシビアで、たとえ直ったとしても、完全に戻る確率は5割にも満たないわ。最悪の場合、リセットしなければいけないかもしれない。それでも彼女を救う気持ちはある?」 小百合の質問に、恒一は静かに、しっかりと答えを出した。 「ああ、よろしく頼むよ」 つづく もどる 第十一話へGO
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戦闘回数が増えていくと追加されるキャラもいるので とりあえず、今戦える相手の装備を全部ひっぺがす位(5〜6回)の勢いで戦っていけば 特に問題なく戦える相手も増えていきます。 「1対1」 「1対2」または「1対3」 のハンデ戦 「1対1」初登場はゲームセンターで1回戦闘のみ。本編クリア後の継続プレイで常駐する 「1対1」メインストーリーにからむイベント戦1回のみ。 初期~ F3クラス制覇~ F2クラス制覇~ 初期~ マスター 神姫 神姫タイプ 元ネタとか攻略情報とか 柴田勝シバタ マサル プルミエ アーンヴァルMk.2 おそらく多くのプレイヤーが最初に戦う相手。神姫名の「プルミエ」は「最初」を意味するフランス語「プルミエール」からだと思われる。戦国から江戸にかけて家名を残した「柴田氏」が「勝」の字を代々使っているまた格闘技にも「柴田勝久」「柴田勝頼」の親子がいるバトルロンドのNPCでも「まさる」「プルミエ」が登場 小早川千歳コバヤカワ チトセ リリス ストラーフMk.2 勝利後F3①予選解禁バトルロンドのNPCでも「ちとせ」「リリス」が登場 姉崎静馬 ナギ ハウリン 三毛屋ベンガルミケヤ ベンガル コモモ マオチャオ 「よーしよしよしよし」…漫画「ジョジョの奇妙な冒険 第六部」のキャラクターグェスの台詞のパロディ 柏葉剣 ルーデル ゼルノグラード 第二次大戦時のドイツ空軍の爆撃王(兼エース)ハンス・ウルリッヒ・ルーデル大佐及び彼が受賞した黄金柏葉剣ダイヤモンド付騎士鉄十字章から 山中美幸 ライラ アーンヴァルMk.2 赤橋瞳子アカハシ トウシ ハヤテ ハウリン 足利尊氏の妻 赤橋登子(あかはしとうし)? 津軽冬至 雪華 フブキ メールで対戦可 勝利後自宅でフブキ解禁 足利崇文 紅葉 マオチャオ 勝利後F3②予選解禁「兄様がまともに戻るまで、殴るのをやめないっ!!」…漫画「ジョジョの奇妙な冒険」の主人公、ジョナサン・ジョースターの台詞のパロディ室町幕府初代将軍 足利尊氏? シルバー・クレイ マリー アーンヴァルMk.2 「私達はようやく登り始めたばかりなのデース、この果てしなく遠い神姫坂を」漫画「男坂」のラストのパロディ 犬童太 ハナ ハウリン 軍曹 三等兵 ゼルノグラード 映画「フルメタル・ジャケット」に登場する鬼教官、ハートマン軍曹とその部下神姫名の元ネタは漫画「ロボット三等兵」から? 真紅女帝総長 沙耶香 アーク メールで対戦可難関その1 沙耶香を倒すと戦う気が無くなる勝利後ショップでアーク解禁「女帝」は英訳するなら正しくは「エンプレス」なのに真紅女帝(クリムゾンエンペラー)と呼ぶのは、コナミシューティングゲーム、エアフォースデルタの作戦名からアーク型曰く「珍走団」←徒党を組んで道路交通法違反を繰り返す集団のこと「203高地に挑む」中国にある丘陵で日露戦争の重要拠点 真紅女帝副長 亜里沙 アーク 真紅女帝見習い 香里奈 アーク ダリル・ブレナン ドロシー ハウリン 吉川素子 アローズ マオチャオ 猪苗代孝実イナワシロ タカミ ふゆなぎ ゼルノグラード 春夏冬 あきな アーンヴァルMk.2 「商い中」の古い(言葉遊び的な)表現「春夏冬中」→「あきな」 F3クラス制覇~ マスター 神姫 神姫タイプ 元ネタとか攻略情報とか 双蜂 ベル マオチャオ 双蜂=ツインビー 南部蒼太 フレンダー フブキ タツノコのガッチャマン南部博士と、同じくタツノコキャシャーンのフレンダー チョコレッタ・G アンネ アーク 武装神姫2036 アーク・イーダのデザイナーCHOCO氏から 犬養創 ヤマト ハウリン メールで対戦可難関その2 単体のLPは低い神姫名は大日本帝国の大和型戦艦の名前。(大和・武蔵・信濃。ただし信濃のみ戦艦としてではなく空母として完成している) 犬養続 ムサシ ハウリン 犬養完 シナノ ハウリン 鍋島樹里 みおん マオチャオ 鍋島家の化け猫騒動 立花茂 銀千代 ハウリン 立花宗茂と妻・ギン千代「この風、この肌ざわりこそ神姫バトルよ」…アニメ「機動戦士ガンダム」のキャラクター、ランバ・ラル大尉の台詞のパロディ。「うん、無駄無駄無駄無駄無駄じゃ」…漫画「ジョジョの奇妙な冒険 第三部」のキャラクター、DIOの台詞のパロディ。「片眉剃って大笑いしたり」…空手バカ一代 豪徳寺みか まりぃ マオチャオ 「表の模様が裏に、裏の模様が表についてるコイン」…ジャイアンのもっていたコイン「縦縞のハンカチが横縞」…マギー司郎、審司の持ちネタのひとつ「頭の悪い怠け者~」ハン・フォンス・ゼークトの言葉「バカには見えないメイド服」…裸の王様のパロディ ケンプ 黒姫 ゼルノグラード 「我が選択に、一片の悔いも~」…漫画「北斗の拳」のキャラクター、ラオウの台詞のパロディ 百武健心 百花 イーダ メールで対戦可勝利後ショップでイーダ解禁 給料シーフ シルファ アーク シーフ=泥棒 給料泥棒? 真田有希那 キリカゼ イーダ 練馬大将軍 ミュー アーンヴァルMk.2 練馬区光が丘に存在した「グラントハイツ(米空軍宿舎)」の由来グラント元大統領・元将軍。もしくは究極超人あ~るの成原博士。「世界征服は練馬から!」 偉吹玲人 まお マオチャオ 武装神姫2036 ハウリン・マオチャオのデザイナーBLADE氏から勝利後猫型カスタムパーツ解禁 神選組局長 コテツ ゼルノグラード 新選組とその刀新選組局長 近藤勇:長曾祢虎徹<ながそね こてつ>新撰組副長 土方歳三:和泉守兼定<いずみのかみ かねさだ>新選組八番隊組長 藤堂平助:上総介兼重<かずさのすけ かねしげ> 神選組副長 イズミ ゼルノグラード 神選組隊士 カズサ ゼルノグラード 得川義文 葛葉 フブキ 「お風呂覗かれたり」…緑髪忍者型でコナミのゲーム「がんばれゴエモン」のヤエちゃん? 痴豚 ミランダ イーダ タレント・伊集院光が、ラジオ番組「深夜の馬鹿力」内で照れ隠しも含めて自身の事を言う際に使う呼び方。 痴漢の『痴』に太った人を蔑む意味『豚』を合わせた造語。それを抜きにしてもSMプレイでも『豚』という蔑称はよく用いられる。ミランダはイーダのデザイナーCHOCO氏の描くSFコミック「イグナクロス零号駅」の主人公ミランダ駅長から? 嶋渓フミカ エイル アーンヴァル 武装神姫2036 アーンヴァル・ストラーフ等のデザイナー島田フミカネ氏から ドグラ・モゲラ 菊花 フブキ ドグラ・マグラからか?(会話内容からマスターの容姿が「戸惑う、面食らう」や「堂廻り、目眩み」となっており、原点がそういう意味という説から)またはモグラ⇒掘る(男に対して性的な意味で)⇒アッー!⇒菊の花 山中日向 葵 アーク 日向葵で「ひまわり」。山の中に咲くひまわり? タケル サギリ アルトレーネ サギリの方が耐久が低い勝利後ショップでアルトレーネ・アルトアイネス解禁日本神話のヤマトタケルノミコト 日本神話の神:アメノサギリorクニノサギリ ミコト テルヒメ アルトアイネス F2クラス制覇~ マスター 神姫 神姫タイプ 元ネタとか攻略情報とか ??? ??? アーンヴァルMk.2 勝っても負けても展開は変らないが勝つと称号が貰える 神宮司八郎 アトラ アーンヴァルMk.2 F2制覇後登場。探偵 神宮寺三郎 また、「アトラ」は穴を開ける道具の事なので、海底軍艦轟天号艦長神宮司 八郎 大佐 森永穂波 アニー アーンヴァルMk.2 神宮司八郎戦闘後登場元女優の森永奈緒美さん。アニーは宇宙刑事シャイダーでの役名 神戸こなみ みなこ アルトアイネス F2制覇後登場。神戸のコナミそのまま。みなこはその逆さ読み「もっと恐ろしいものの片鱗を」…漫画「ジョジョの奇妙な冒険 第三部」のキャラクター、ポルナレフの台詞のパロディ。 笠嶋京香 あざみ ストラーフMk.2 赤城春菜 麗音 アルトレーネ 北関東最強、赤城→赤城山、春菜→榛名山、最強神姫理論→公道最速理論でいずれも漫画「頭文字D」のネタアルト「レーネ」→麗音 趙飛燕 夏姫 イーダ 前漢成帝の皇后。夏姫→巫臣(春秋時代の楚の政治家)のカミさん> 王秀英 睡蓮 アルトレーネ 周小紅 蘭蘭 ゼルノグラード 音黒野美子 クロミ フブキ クトゥルー神話に登場する架空の書物「ネクロノミコン」から。神姫名もネ「クロ」ノ「ミ」コン→クロミか?ちなみにバトル前の会話で唱えている怪しげな呪文も、クトゥルー神話に関わるものである。はしかのようなもの…はしかは日本人なら一生に一度はかかると言われる病気。転じて、恋の病や中二病など、誰もが経験するであろう事象を指す 武本哲 チェリー ゼルノグラード 漫画「じゃりン子チエ」の「竹本テツ」「チエ」にひっかけて「チェリー」 愛猫党党首 ターニャ マオチャオ 勝敗に関わらず趙飛燕と戦うと挑戦メールが来る 愛猫党参謀 アイニャ マオチャオ 愛猫党書記 ハルニャ マオチャオ 麻呂 雛鶴 イーダ 山県みちる 薫 アルトレーネ 「神姫イヤーは地獄耳」…デビルマン 兜茂 ユリコ アーク 仮面ライダーストロンガー神姫名のユリコはストロンガーのパートナーの電波人間タックルこと岬ユリ子 左籐楓 メープル フブキ 勝敗に関わらず愛猫党党首と戦うと挑戦メールが来るメープル:英語でカエデのこと。左籐楓(サトウカエデ)はメープルシロップの原材料アナベル:アジサイの品種。紫陽花(アジサイ)マグノリア:モクレンの品種。大山蓮華(オオヤマレンゲ)もモクレンの一種 紫陽 花 アナベル アーク 大山蓮華 マグノリア イーダ ういろー ナナ マオチャオ 名古屋名物、ういろうとナナちゃん 埴場怜太 クラリス アルトアイネス 羊たちの沈黙の登場人物。埴場怜太(ハンニバル・レクター)とクラリス・スターリング 九頭龍 ルル アーク クトゥルー…クトゥルー神話に登場する神の名前、九頭龍はその表記の一つルルイエ…同神話に登場する架空の地名 陰陽熊 ファム アルトアイネス 閃光魔女 シャイナ ストラーフMk.2 プロレス技のシャイニング・ウィザードからか?男にしとけばよかったんじゃ…(ウィザードは主に男性の魔術師を指す) 開田有人 ライム マオチャオ 全F1予選クリア後に登場。元ネタは開田裕治氏と氏のホームページに掲載されている徳間文庫の官能小説アンソロジー「爛夢」から?「きれいな言葉遣いだろ?マオチャオ型なんだぜこいつ」ご存知某野球漫画の主人公のせりふ。
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第十幕、上幕。 ・・・。 銀色のケースがある。 丁重に扱われるように、多重になっているケースがある。 小さなそのケースには、かつて『生きていた』神姫のパーツが一つ、大切に納められている。 小さなケースの中の、とてもとても小さなパーツ。 たった一体の神姫の、たった一つの身体のパーツに過ぎない。 だけど。それでも、ほんの少しとはいえ、確かに大切な時を歩んだカラダには。 人さえ信じる者が少ない大切な物・・・心。それがあると。 そう、信じていた神姫がいた。 心に伝えようとした、声。 心と歩もうとした、脚。 心を包もうとした、手。 心さえ見つめようとした、瞳。 それらと共に・・・未来へと馳せられた想い・・・そのものが。そのケースには納められていた。 だが。それが、もしも。 無駄になるとすれば・・・。 その未来は、優しいだろうか。 12月も下旬。22日の夕方。千葉県峡国神姫研究所、所長室。 「はい・・・それでは。前向きに検討させて頂きます。はい、よろしくお願い致します。こちらこそ」 初老の女性、小幡紗枝は、そう括って電話を切り、デスクに置いた。 そのままやれやれと大きく溜息を付いて随分と、それこそ一年分の疲れが来ている首を回す。 老け込む歳では無いと本人は思っているのだが。このような仕事故の職業病か・・・随分と最近肩が凝る。忙しい事は決して悪い事ではないものの・・・。 認めたくは無いが、この歳では流石に身体に溜まるようだ。 (・・・ふふっ。強がりですね) 外は風が強くなってきたのか、窓越しでも風音がはっきりと聞こえるようになってきた。ふと立ち上がり、窓際に歩み寄りカーテンを指先で開けると、風に誘われたのか暗い雲が空を少しずつ覆い隠していく様が見えた。 クリスマスも近いというのに嵐でも来るのだろうか? まぁ、それで神が不貞腐れるとすれば、キリスト教徒には辛いのだろう。そんな下らない事を考えていると。 「所長、失礼します」 数度のノックの後、オートドアが開き、眼鏡をかけた見たところ20代後半ほどの男性が書類らしいファイルを片手に顔を覗かせた。 「あら、大河内君」 小幡がそう呼んだ男性の背の後でドアが静かに閉まると、カーテン越しに外を覗いていたらしい所長に肩をすくませる。 その男性、この研究所の所員である大河内芳和は、随分と古い印象を持つ黒縁眼鏡のズレを直しながら続けた。 「はい、今年分の・・・最後になりますか。一通りのデータ書類と、丁度・・・その、用件です」 「丁度?」 首を傾げて聞き返すと、彼は笑って指で窓を指した。 「雪が混ざれば吹雪く事になるかもしれません。全員定時で帰しましょうか」 「あ。そうですね・・・」 納得しつつ、さっと軽くカーテンを閉め直すと。小幡は椅子に戻って深く座りなおした。 「そろそろ、今年も終わるのですね。皆、お疲れ様でしたと伝えなくては」 堅苦しそうな表情、仕草。口調・・・しかしながら。どうにも人間臭さが前に出てしまう。 そんな所長だからこそ、か。彼は軽く肩を竦めた。 「所長もお疲れ様でした。ところで・・・先の電話の用件は、以前の?」 「えぇ、一応は了承しましたよ。あちらも喜んでくれました」 その言葉に大河内は苦笑ともつかぬ笑みを浮かべて頷く。 この研究所のバトル筐体の一般解放の事。 峡国はもとより武装神姫プロジェクト発足後は、武装テストを中心に行ってきた。その為、その筐体のシステムクオリティは常に最高級に位置する事が求められている。 ・・・以前より、『そういう打診』があった事は事実だが・・・。 「大会等の限定的に貸し出す事にしようと思っているのですが、あとは。今までどおり修理など」 意見を求めるように首を傾げる小幡に、彼は頷いた。 「『神姫も、近くなりにけり』ですか。良いのではないでしょうか」 「名前を変える必要があるかも知れませんね。『神姫研究所』では堅すぎますし・・・」 そういって小幡は笑った。 武装神姫以前、特に文化系特化神姫。エレティレス、ミネルヴァ、クラリネットといったタイプの神姫が発売された時には。とても一般に神姫がここまで普及するとは思えなかった。 当時、技術の最新鋭の結集。そんな代物では、そのほとんどがオーダーハンドメイドだった。今も、解析されない部分さえある一種不思議な存在、神姫。 ・・・時の流れは早い。その歴史の波濤は全てを押し流す。 今では。随分と『人に近いところ』まで神姫がやってきている。この『武装神姫ブーム』はその現れとも言えるだろう。 「・・・」 バトルだけではない。 普及していく彼女達に触れ、多くの人間が。きっと多くの事を感じることになる。 それは決して正の事だけではあるまい・・・しかし。 小幡は節くれだった指を合わせて何らかを考え込むように目を閉じた。 「所長?」 「クリスマスまで、あと三日。ですね」 彼女が何を言いたいかを解し、大河内はふっと驚いたような表情を浮かべて、しかし。そのまま自身もただ、目を閉じた。 「はい。そうですね」 「今も聞こえますか?」 何が。とは聞き返さない。ただ、彼は目を開けると小さく笑う。 「そう。・・・私もです」 そう言って、小幡も笑って見せた。 ・・・。 12月の、25日。 それは。峡国研究所所員にとって。忘れることが出来ない『命日』。 大河内も、その光景を覚えている。 作られた身体。たった一つの身体を愛しげに、その小さな自分の手で抱きすくめ、最期まで優しい微笑を浮かべながら・・・美しい声で別れの言葉を紡ぐ美しい姿を。 感謝さえ述べて。彼女は、涙を流す彼らの前で。その動きを永遠に停止した。 『えぇ、そうですね。私は幸せでした』 聞こえる。・・・今も。 彼女の美しい声が。彼女の小気味良い足音が。 思えば、ヒトが心を失ったと言われた『灰色の2010年代』。全てから彩が消えた時代に生まれた彼は。 あの時。ようやく涙を知ったのではなかろうか。 『それでは皆さん。たくさんの心を・・・ありがとうございました』 最後に一筋だけ伝った涙。 今思えば、あの涙に。彼女は・・・どれほどの想いを込めたのだろう。 彼女が口にしたその『言葉』は。彼にしてみれば最後の後悔。 それはむしろ自分たちが・・・。彼女に送るべき言葉だったから。 「・・・。では、先に言った様に定時で帰らせます。所長もお早く」 「ありがとう」 と、そう答えたとき。電話が鳴った。 「あら・・・?」 ふと番号を見れば、それは同業者・・・研究所からのもの。しかし、その研究所のある場所は。 (?) ここから遥か遠方。 一応、といった感じで。とりあえず登録してあるだけの番号だ。ふと、小さく眉を顰めながらも、小幡はその受話器を取った。 「はい、峡国研究所所長、小幡です」 訝しげな表情を声に出すまいとする彼女に遠慮するように。 大河内は書類をファイルごと机にそっと置いた。小幡に手で合図され、一度礼をして踵を返す。 「・・・えっ。はい、確かにありますが・・・」 「?」 「えぇ、その通りです。クラリネットタイプですが。それに、そういう初期不良なら・・・」 その単語が出た事に、彼はぎくりとして肩越しに振り返った。 「はい。あぁ・・・CSCリンクが・・・はい、はい。なるほど。それならば確かにこちらの方が良いかもしれませんね。えぇ・・・え?」 小幡の声に、僅かながら興奮が混ざっている。 「なんという・・・そうですか」 その顔に驚愕が走った。 「同系の波長が! そこまで条件が揃うのは・・・奇跡的ですね」 「・・・!」 「解りました・・・その、『違う神姫ではイヤだ』というマスターの方の為にも・・・はい。必ず」 その堅苦しささえ含めて浮かべていた訝しげな表情が、柔和な笑みに変わっていく。 (まさか?) 大河内は身体を振り向けて尚もズレていた眼鏡を押し上げた。 小幡は手を軽く振ってその事を肯定するように頷く。 (・・・あの、最後の部位が?) よもや『合う』神姫が存在するとは思わなかった。 神の導きか。それとも・・・。 (それとも・・・あなたですか? ゼリスさん) 大河内も無精髭が伸びた顔で、笑みを浮かべて頷き返す。 だが。その時だった。 「・・・え?」 明らかに調子の違う声と共に、小幡の表情が、固まった。 「・・・。・・・ッ!?」 そのまま笑みが崩れ、愕然とした表情に変わっていく。 「それは・・・つまり。いえ、もしも」 受話器を持つ手は震え、唇がわななく。彼は彼女の異常に思わず眉を顰めた。 (?) それから十数分、いや。もっと長くあっただろうか。 (・・・) 小幡の口からは数度聞き慣れぬ・・・いや、人間としては決して聞き慣れたくない単語が零れ、それらはその度に大河内の浮かれた気分を氷点下に叩き落していく。 「申し訳ありません・・・。折り返し、電話致します・・・はい。いえ、お気遣い。ありがとうございます。それでは」 そのまま、震える指で電話を切ると、卓上に置き。・・・小幡は目を見開いたまま、一度息を吐いた。 「所長・・・」 大体の内容は掴みはした。だからこそ、彼は、即座に口を開いて聞かなくてはならなかった。 『どうするのか』と。 「・・・無駄になるかもしれない」 小さな声。 「いや、大切な物が、無駄になる・・・とすれば」 その大河内の問いを待つ事も無く。小幡は呟くように口を開いた。 「そんな未来を選択する事を。出来るのでしょうか?」 「・・・」 「生まれて、すぐに・・・」 消えゆく事になる・・・かもしれない。 そんな『心』を、私は生み出すことが出来るのだろうか? 最後の言葉は、既に声になっていなかった。 何も持たずに生まれる神姫。その命の中で、何よりも繋がりを求める彼女達。 何も持たずに心が生まれ出で。 しかし、その心は時を走ることさえ出来ず、何も想わずに消えるとすれば。 そんな事を。自分は、決断出来るのか? ゼリスの身体を、想いがこもった最後のパーツが。 『無駄』になると解っていても。 ぽつり、ぽつりと話す小幡から、先の電話の内容を掴み、大河内は腕を組んで唸った。想像以上に事態は急を要するらしい。 彼はしばしの間、考え込んでいたが。 突如、自分でもぎょっとする案が頭を走った。 (それは・・・だけど) それをしてどうなる? ・・・いや、どうなるかでは、あるまい。きっと。彼が意を決するまで僅か数秒。 「所長・・・『訊いて』みては、いかがでしょう?」 その言葉に、小幡は顔を上げた。 「訊く? 誰に?」 その目をじっと見返し、彼自身も苦しげに言葉を続ける。 「ゼリスさんを・・・識っている者がいます」 辛そうな絞り出すような声に、小幡は目を見開いた。 「まさか。彼女達に伝えよと? この事を?」 「私達と同じほどに。彼女達は強くゼリスさんと繋がりを持ちます」 「・・・それは」 「はい。これが何になるかは解りません。しかし、訊いてみるべきかと思います」 「・・・」 沈黙が返る。大河内はじっと彼女の声を待つだけだ。 「・・・。・・・私達では、解らない繋がりがある。ですか」 「所長は恐らくゼリスさんと最も強い繋がりを持っておられます。しかし、ヒトである私達とは違います、彼女たちもまた、神姫なのです。ある意味これは」 そこまで言ったところで、弱々しく、手でその先を制した。 「そう。ですね」 顔を上げて、一度大きく息を吐くと。 小幡は、電話に手を伸ばした。 ・・・。 「それで、それは。いつですの?」 ヴィネットはいつものクレイドルの上、キャッシャーに接続しているコンピュータ。そのウィンドゥにに映る小幡に尋ねた。その真紅の目は常より鋭く、常よりも美しいと思わせる声はしかし緊張を張り巡らせている。 『二日後・・・です』 その言葉に息を飲んだのは、ヴィネットではなく。隣に立つリカルドの方であった。 「二日とは・・・なんと」 「そうですか、時間は・・・無いのですね」 猛禽を思わせる視線のまま、じっと画面に映る小幡を見つめて。 「母の身体、他ならぬ母の身体です。無論、そのような事。決して諸手を上げて賛成とは言えません・・・それが『長女』たる。私の選ぶべき言葉でしょう」 『そう、ですか』 「しかし・・・それでも」 姿さえ知らぬ、妹となるかもしれぬ者に。 神姫として、最も苦痛ともいえる悲しみを一種『強いる』事が出来ようか? (だけど・・・) ヴィネットは声と、心とが揺れるのを感じていた。 「それでいても、私は・・・」 ・・・。 「少しでも、会えるなら。会えるなら起こしてあげて!」 フェスタは自宅の応接間に持ってこられた電話の前で叫んだ。 「その・・・。会う『時間』は、少しでもあるんですか?」 「・・・フェスタ、落ち着いて」 マコトに宥められるが、彼女はぽろぽろと涙を零しながら、美しい山吹色の光を湛える髪を揺らして首を振る。 『フェスタさん。もしも間に合ったとしても・・・』 小幡の声が電話から小さく零れる。 「間に合ったと、しても?」 最早答えられぬフェスタの代わりに、マコトが先を急かす。 『恐らく会話が出来たりする状態では無いという事です』 「・・・」 しゃくり上げながら、ぺたん、と。その応接間の木製の天板に、フェスタは腰を落とした。 「どうして・・・」 『フェスタさん、悪い結果もまた、あくまで可能性です』 「・・・うん。解ってます」 小幡の声に、力なく答える。 「解って、ます・・・。解って・・・るんです」 そう繰り返す。が、彼女には涙が止まらない理由は。解らなかった。 それが、きっと神姫にとって、何よりも辛いことだと解るから。 やがて。しばらくの後。そのまま、顔を上げずに。 「・・・私、なら・・・」 ・・・。 ルクスはスピーカーモードになっているアキの携帯電話の前で立ち竦んでいた。 その震える唇で言葉を紡ぐ。 「会話さえも・・・。一度の会話さえも。不可能である、という事ですか?」 『・・・』 「なら・・・」 ゆっくりと。絞り出すように、小さく呟く。 「せめて、会って・・・。その・・・『会える』のでしょうか?」 『解りません。恐らく迅速に行ったとしても。全身麻酔に入っている可能性はありますし・・・それに既に』 唇を噛み、言葉を失ったパートナーを、アキが心配そうに覗き込む。 「・・・ルクス」 「その、それは」 声は揺れていた。怒りか、悲しみか。それは自身も介する事は出来ない。 「どれくらいで成功するのでしょうか・・・いえ」 可能性など無意味であると知り、首を振る。 答えを小幡が知らない事も解っている。だが、それでもルクスは問い尋ねなくてはならなかった。 気休めにもならない、その言葉を。 「成功、するのでしょうか?」 だが。 解答は、返って来なかった。 ふっと、その銀色の瞳で天を仰ぐ。 「母様の身体・・・。これはあくまで個人的な意見。述べさせていただきます・・・お聞きください」 ・・・。 電話を切り、小幡は首を振った。 「この結果は、想定できませんでした」 「皆、同じ解答を返しましたね」 大河内は、険しい顔のまま、僅かながら意外そうな声で言った。 「きっと。・・・何かを、知っているのでしょう」 目を伏せたまま、小幡は首を振る。 「それは・・・人が解らない感情。人が信じれない何か・・・その何かを、信じているのかもしれません」 「所長・・・」 その声に一度だけ頷き、彼女は最後の姉妹の電話番号を押した。 ・・・。 ボタンは久方ぶりに帰ってきたコウの自宅。 その仕事でも使用しているノート端末をTV電話として使い、その前でじっと腕を組んで胡坐をかいて座っていた。 「・・・」 コウはどっかと横の椅子に座り、何も言わず、その様子を見ているだけだ。 先までコウが吸っていた煙草は既に燃え尽き、沈黙のみがその場を支配する。耳が痛くなるような、冷たく重い空気が流れていた。 「なぁ、小幡殿」 ややあって。ボタンがようやく切り出した。 『はい』 「それを・・・。その神姫が望むと思うか?」 思いもしない問いを返され、小幡は声を失った。 『・・・その、神姫が、ですか?』 ボタンはじっと画面の向こうにいる小幡を直視する。 『その神姫は、未だ生まれてもいません。誕生させる為に・・・』 その返答に満足げにボタンは頷いた。 「人間らしい考え方だ、ありがとう。だが・・・神姫はそもそも、CSCが植え込まれ、初めて声を上げたときに『生まれる』のだろうか」 そういって、彼女は自分の掌を見つめた。 「既にCSC以外の全てを持ち、それ以外を持たぬ。決して『生まれる』という事が、心が動き出すという意味でもない・・・アタシは、そうも想う。その神姫は既に生まれているが・・・心を見つけようとしているだけだ」 しばし、視線を宙に這わせ。うん、と一度頷く。 「目覚める・・・いや、あえて『芽生える』。といった方が良いかもしれないな。それは」 モニターの向こうで、小幡が僅かに目を見開いた。彼女は、それを伝えてはいないはず。 その神姫が・・・。そのMMSタイプが・・・。 「なれば。もう生まれている神姫が。芽生え、自分であると認識し。光を知り、目を開け・・・そして。主の想いを受けることも無く。再び目を閉じるとして・・・それを望むだろうか?」 答えれぬままの小幡に一つ息をつき。淡々とボタンは続けた。 「アタシ達は何も持たずに生まれる。自分が自分であるという事は、この世界で心に触れ、心を抱き、風に吹かれる事で知るのだ。それさえ出来ず、それを許されぬ事を。その神姫は望むだろうか?」 『・・・』 無言を返すしかない小幡。そんなことは。 しばし顔を伏せ。やがて、ボタンはその大きな目をじっと彼女の映るディスプレイに向けた。 「アタシなら・・・望むかもしれない」 『!』 「・・・例えそれが一時でも構わない。それが一瞬で構わないんだ。しかし、そのCSCをセットしてもらった事。起動スイッチを押して貰った事。その事だけでも喜んで目覚めるかもしれない。だが・・・それは」 「ボタン」 それまで沈黙を守っていたコウが、じろりと視線を動かして、その口を開いた。 「どいつもこいつも。勝手に幸せになる、お前みたいなバカじゃねぇだろ」 「・・・。そうではある、主」 ボタンは恐ろしく強い。その心は死を知っている。絶望を知っている。 それを彼は、彼女と共に暮らしてきた彼は。誰よりも知っている。 ボタンなら全てを包み、全てを受け入れ、その『手』で抱きしめる事が出来るだろう。 だが・・・。 「なぁ、小幡さんよ。今、このバカ犬が言ったとおりだ。それを望む、望まないは神姫それぞれでしかねぇ」 『・・・えぇ』 「で。アンタは。エゴに生きてみる気があるか?」 コウは、ずいっと大きな身体を乗り出すように、小幡に問い尋ねた。 『・・・エゴ? ですか』 「そう、エゴだ。自分勝手に楽な解釈をして。自分勝手に動いて、他者よりも自分を可愛い。そう生きてみる気はあるか?」 いつもの得意な笑みさえ浮かべず、コウは続ける。その視線には何かを試すような意さえ込められていた。ボタンはきょとんと自身の主人を見上げる事しか出来ない。 「こっからは神姫どうこうじゃない。『人』としてのアンタの胸先三寸にかかる。聞け」 『・・・』 「コレは飽くまで、前例があるだけだが・・・」 『・・・それ・・・。ですか・・・』 話し終えた後。悲痛に近い表情を浮かべて、小幡は首を小さく振った。 「あぁ、知っているだろうが。方法として、あるには、ある。今回は特に、特別だ」 「主・・・しかし! ・・・しかし・・・それは」 ボタンが何か言いたげに、しかし。何を言えば良いか解らずに困ったような表情で首を振りながら見上げ続けている。 恐らくは泣いているであろう、その姿をあえて視界にいれないようにしながら。 「・・・。まぁ。やれと言われてもアンタにゃぁ簡単に出来ないだろうが」 余り言いたくなさげに。いつものように、やる気無さげに。彼は続けた。 「だったら。その神姫に直接『聞いて』みな。それでいいか、とな。訊けるなら・・・だが」 ・・・。 電話を切った後。小幡はちらりと大河内を見た。 「確かに前例はあります。確か二件ほど」 その言葉に頷くと。彼女はゆっくりと立ち上がった。 「所長」 心配そうな声を手で制する。 「今から準備をして行きます。時間がありません」 「・・・。訊くのですか? その神姫に。その問いを」 机の電子ロックを解除し、中から、小さな銀色のケースを取り出し、彼女は握り締めた。 「直接・・・訊けるのですか? 所長」 無機質なケースの冷たさだけがはっきりと伝わってくる。小幡はそのケースをじっと見つめ、やがて、そのまま窓に視線を向けた。 そう。この部屋。この窓。 あの日・・・今年の一月一日に。私は誓った。貴女の遺志を受け継ぐと。 窓を開けようと手を伸ばし、しかし。小幡はその鍵に手をかけた所で動きを止めた。外に吹き荒れるような強い風が、何かを彼女に知らせる警鐘のように鳴り響いていた。 (・・・ゼリス) その風に憧れると笑って言った彼女の名を心中で呼ぶ。 ・・・あなたなら。どうしますか・・・? ・・・今でも、私の背を。押してくれますか? ・・・。 翌日、深夜三時。新函館空港。 小幡は、雪が積もる北の大地に降り立った。今もまだ小降りとはいえ雪は降り続いている。 が、それは決して吹雪いてはいない。 そう。 そこには、あれほど千葉では強かった、全てを吹き押す風は。 その一切、吹いて・・・いなかった。 第十間幕
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凪さん家の十兵衛さん 第五話<殺戮の歌姫> 闇、漆黒の空に木霊するは、妖しき姫の歌声。 今日もまた、歌に魅了され己を無くした者達が、残酷な舞踏を披露する。 光、漆黒の空を貫くは、地獄から来た悪魔の咆哮。 それは不幸の鎖を食いちぎる者、その左目に輝くは、紅き決意の灯火。 「第一、第二小隊は第三小隊の活路を開け!第四、第五小隊は第三小隊の援護!なんとしても奴を倒すんだ!」 『ラジャー!!』 薄暗いワゴン車の中、モニターの光だけが車内を照らす。画面には無数の神姫の姿が映し出されている。 「今日で終わりにしてやる…」 そうつぶやき、眼鏡を光らせたのは、あの男。 ある日友人が持ってきた無残な神姫を、神姫への愛と己の技術を総動員して直し、後に伝説なる証、 左目の眼帯を与えた男。黒淵 創(くろふち はじめ)だ。 痩せ型の長身、だが適度に整った筋肉と顔立ちによりひ弱さはまったく感じられない。 「当たり前だ、創。今日で終わらせる!」 とその仲間が言う。 「あぁ、そうだね。…ミーシャ!他の奴には構うな!今は目の前の元凶を倒すことだけを考えるんだ!」 「了解マスター!行くよ!皆!」 マスター、私はいつも「ご主人様」と呼んでいる。 しかし戦闘時だけはマスターと呼ぶことにしている。 『ラジャー!』 と勢いを増した第三小隊の面々は一目散に目標へ向かう。 中央に位置するは創の武装神姫、天使型のミーシャ。その左右に控えているのはヴァッフェバニーだ。 これは本部より貸し出された神姫である。よって、決まった名前は無い。 今回の場合はツヴァイ3、ドライ3と呼ばれている。第三小隊の二番、三番機の意だ。 「マスター!目標を確認!情報通り天使タイプです!」 「よし!敵は手ごわいぞ…!慎重にな」 「了解!」 「おい!大丈夫か!シン!!おい!…くそ…第一小隊…全滅を確認…」 「くっ!」 「なんだ!?」 「敵の勢いが増しています!このままでは!」 予想をはるかに超えた軍勢がこちら側の神姫達に迫る。 「ミーシャ!!」 「了解マスター!」 私は今回の作戦の最優先目標にロックを合わせる。 今回の戦闘で、破壊許可が下りているのはあの大元の神姫のみ。 他の神姫は操られている神姫だ。中には非戦闘用の神姫もいる。 そう、神姫といっても大きく二つに分けることが出来る。 神姫と「武装」神姫だ。元々神姫と呼ばれる十五センチサイズのフィギュアロボは戦闘用ではなかった。 ただ純粋に人間のサポートをするために生み出された存在。 しかしある時…神姫に武装を施し、競技として戦闘行為を行うマスターが出てきた。 他の神姫のマスターもその競技と称した戦闘行為に賛同し、参加した。 そうして拡大を続けた戦いは、バトルサービスという公式に認められしものとなり。正式にバトルサービス本部が設立されたのだ。 そしてその集大成となるのが、最初から戦闘行為を考えられて開発、誕生した私達「武装神姫」シリーズである。 そんな二種類の神姫達がたった一体の神姫に操られ、暴走している。しかしあくまで操られているだけの彼女らに非は無い。 よってなるべく無傷で元のマスターの元へ戻す必要がある。 それが本部からの通達だ。はっきりいってかなり難易度の高いミッションである。 敵となってしまった友人達は容赦無くこちらに攻撃を加えてくるのに、 こちらはそうするわけにはいかないのだ。 私達はそんな容赦無い攻撃を受け流し、耐え続けなければならない。 しかし時間が長引けば長引くほど私達が不利になる。よって迅速な行動が勝利の鍵。 「いけぇぇぇ!ミーシャぁぁぁ!」 仲間達の想いと供に私は空を翔ける。 「はぁ、はぁ…」 そうして私は対峙した…白き天使に。 「いえ、悪魔ね…」 その敵はにやりと微笑み 「あら、悪魔だなんてひどいわ…フフ…貴女と同じじゃ無いの…」 「形が同じでもその心は違う!絶対に!」 「そう…じゃあ身を心も同じにしてあげる…」 その笑顔が歪んだ。 「!?」 強烈な精神波が私を襲う。これが例の…ぐ…心が侵食されていく、頭の中が取り替えられるような感覚。 ぐちゃぐちゃにかき回されていく…今までの思い出…それがどんどん遠くへ行ってしまう… ぐ、そんなの…あぁ…い、だ…めぇ…。 「ミーシャ!!!しっかりするんだ!!」 マスターの声が聞こえる。 「マ、スタ…」 「ほら、ほらほら…早く楽におなりなさい…」 あ、あぁぁぁぁぁ!一層精神波が強くなる。 「ぐ…、うぅぐ」 「ふふふ、がんばるわね?でも貴女のお仲間さんはもう私の友達になってくれたみたいよ?」 「え、まさか…ツヴァ、イさん…ドライちゃ、ん…」 抵抗を続けていたヴァッフェの二体は無残な姿になっていた。 装備を剥がされ、目を刳り貫かれ、腕はもぎ取られ…しかしそんな外見になっても立ち上がり、そしてこちらに銃を… 「そ、そんな…ぁが!」 パァン…パァン… 銃声が無数に響く。さっきまでともに戦ってきた仲間の銃弾が私に牙を向く。 「ぐ!あぁ、ぐぅあ!」 「ふふふふふふ…」 天使の象徴である翼には穴が開き。装甲がはじけ飛ぶ。 「く、ぬぅ…」 「あら、まだ動けるの?強情な子…じゃあもっと痛い思いなさい」 そう言うとその白き悪魔はそっとミーシャに近づく。 「ぐ!?あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 途端、腹部に激痛が走る。そして背中から青白い閃光がはみ出し、貫いた。 「がは、ぐぅあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」 「ほらほらほらぁ…どんどん深く刺さっていくわ…ふふふ」 「ふぁ、ぁが…ぐ…」 意識が遠のく…も、もう駄目…ま、ますた…ぁ。 「さて、そろそろお遊びは終わ…?…ちっ…もうそんな時間?」 と、急に攻撃の手が止まる。腹部に突き刺されたライトセーバーはその凶刃の展開をやめ、セイバー発生部まで体内に入っていた状態から一気に引き抜かれる。 「ぐはぁっっっ!!がは…うぐ…」 私はその痛みに耐え切れず崩れ落ちる。そして 「ぐぁっ!?」 頭部に衝撃。白い悪魔が私の頭を踏みつけていた。 「ふん、運が良かったわね…でも次は…それとももう怖くて外に出られないかしら?」 「ぐ、う…うぅ」 私は涙を流していた。恐ろしいほどの恐怖、そしてその恐怖に負けた悔しさでだ。 「まぁいいわ…覚えておきなさい…私の名前はセイレーン…無垢な神姫を幸せの世界へと誘う女神…」 「がはっ!…セ、セイレーン…」 そう言うとセイレーンと名乗った神姫は私の頭部を踏み台に高々と飛び上がり、消えていった。 動かない体、目の可動範囲のみで辺りを見渡す。残ったのは装甲や武器の残骸だけ…神姫と呼ばれていた者達は一体として残されてはいなかった。くっ…連れ去られたんだ…。 「み、み…んな…」 私のせいだ、私がちゃんと出来なかったから皆が…。 「う、うぅ…う…」 私は泣いた…泣き続けた。遠のく意識の中で最後に見たのは走ってくるマスターの姿。 私を抱きかかえるマスター。 「…っかりするん…!みー…ゃ!!…―しゃぁぁ…ぁぁ!!」 私の意識はそこで途絶えた。 復帰したのは二十三時間後になる。 キュウン…センサー起動、視覚正常、全システムオンライン。 「う、うん…」 私は重いまぶたを開けた。 「ミ、ミーシャァァ!!!!」 「やったな!!」 「ミーシャさん!!」 目の前にはマスターいえ、ご主人様…それに凪 千晶様とその神姫、十兵衛ちゃんがこちらを覗いて 文字通り三者三様の反応を見せていた。 「ご、ご主人様…凪様…十兵衛ちゃん」 「「「ミーシャァァァ!」」」 「ふえっ」 ご主人様が私を抱き寄せる。 「良かった…本当に良かった…」 「ご主人様…」 「良かったです!ミーシャさん!!」 「おう、ひやひやしたぜ」 「ご、ご心配かけて申し訳ありませんでした…」 「良いんだよ!ミーシャさえ無事でいてくれたら!」 ご主人様はさらに私をすりすりする。 「あ、有難うございます…で、でも…」 そう言うとご主人様の表情が暗くなる。 「ミーシャ…うん、そうだね…」 「皆は、皆はどうなったんですか!!」 「…残ったのは…ミーシャ…君だけだ…」 「そ…そう…ですか」 信じたくなかった。でもそれが事実…。 「ミーシャさん…」 「………」 そうしてご主人様は私を机の上にそっと降ろす。 「なぁ…凪…」 凪様の方を向くご主人様。 「ん?…なんだ?」 「…僕は、なんとしてもあの違法神姫を食い止めたい」 「あ、あぁ…そうだな…危険だなぁ…」 「頼む!!十兵衛ちゃんの力を貸して欲しい!!」 と頭を下げるご主人様。 「…」 無言の凪様 「え…」 驚き、口に手を当てる十兵衛ちゃん。 「ご、ご主人様…?」 「分かってる!自分が何を言ってるかは重々承知だ!でも頼れるのは十兵衛ちゃんしかいない! あの神姫に対抗できるのは遠距離攻撃、それも超遠距離攻撃法を持った十兵衛ちゃんだけなんだ!! 頼む!!僕の友人達の神姫を救いたいんだ!!」 部屋の中に静寂…音で表すなら、まさしく「シーン」が相応しい。 「言いたい事はそれだけか?」 「…」 凪様の言葉は重く冷たい。 「確かにお前には感謝してる…。十兵衛の恩人だし、他の事だったら快く受けただろう 。でもこれは違う。十兵衛が今まで体験してきた地獄…それをしろと言ってるのと同じだ…」 「…」 そう、話によれば十兵衛ちゃんの前身は地下の違法バトル出身の神姫だという。そこで培ったスキルと眼帯に内蔵された超高性能カメラを駆使し、 この前の新人戦では新人の名に相応しくない圧倒的な強さを見せて優勝していた。 しかし十兵衛ちゃんはいつしかその地下での戦いを拒むようになり、ついに逃げ出したのだ。 「それに…」 「…」 「頼む相手が違うぞ」 「え…」 「戦うのは俺じゃない、十兵衛なんだろ?確かに俺はどちらかと言えば反対だ。 でも俺は十兵衛になら出来るんじゃないかと心のどこかでそう思っている」 「マスター…」 「だから…頼むなら十兵衛に頼め!俺は十兵衛の意見に合わせる…」 と背を向かれてしまった。 「凪…」 「マスター…」 「十兵衛ちゃん…」 「はい…」 「君の答えを聞かせてくれ…もちろん無理をする必要は無いし、君一人を戦場へ向かわせるつもりも無い…」 「黒淵さん…」 「…」 しばし静寂…。そして十兵衛ちゃんが口を開いた。 「良いですよ、やりましょう」 「じ、十兵衛ちゃん…」 「マスター!私やります!私もこれ以上皆が…ミーシャさんがこんな目にあうのは見たくありません! それに私にしか出来ないなら!私がやるべきなんです! 私はこれまで地下で何体もの神姫を文字通り葬ってきました。 その罪を償うわけじゃありません…でも…せめて …せめてこれ以上!神姫達やマスターの方々に悲しい気持ちになるのを黙って見ていたく無いんです! お願いします!マスター!私に戦わせてください!」 十兵衛ちゃん…なんて勇敢な…その表情からは揺ぎ無い圧倒的な決意が見て取れる。 「…」 凪様は静かに振り向き 「よし、やっちまえ十兵衛」 とにやりと笑った。 「はびこる悪を正義の業火で焼いてやれ!」 「はい!マスター!!」 「凪…十兵衛ちゃん…」 「そういうことだ創。協力してやるよ」 「凶大な悪を打ち倒しましょう!!」 あ、あれ…なんでノリノリ? 「で、でも!」 思わず口が動く。だってもし失敗したら十兵衛ちゃんが! 「大丈夫ですよ…ミーシャさん」 「じ、十兵衛…ちゃん」 「大丈夫です」 にっこりと微笑んだ。悪魔型で左目に眼帯をつけたその神姫の姿は 今までのどの神姫よりも天使に見えた。 さて、やっと俺達の出番か…まったく主役を蔑ろにするとは何事だ。 「まぁまぁマスター、良いじゃないですか」 「うぅむ…しかし…」 それにしても…まさか非公式なバトルをする羽目になるとは。しかもリアルバトルだ。 いや、バトルと言えるものなのかすら怪しい。 「大丈夫か?十兵衛?」 俺は不安になった。 「はい、怖くないわけではないですが…でも大丈夫です。もう私は一人ではありませんから」 「十兵衛…そうだな!」 とはいえいくら十兵衛でもファーストリーグランカーのミーシャでも敵わない相手を倒すことが出来るのだろうか。 確かにこの前の試合、 連勝街道まっしぐらなどこぞの金持ち坊ちゃんのやたらごちゃごちゃ武装したそいつの神姫を十兵衛は何食わぬ顔 (いや、実際はかなり怒っていたのだが)で撃ち抜いた。 その試合時間はわずか一秒。 この話は今思えばあまり思い出したくも無い、あぁなんか腹立ってきた…ま、まぁそのうち話すとしよう。 それはそれとして、とにかく十兵衛の戦闘スキルは特筆すべきものがある。だが…。 いや、待てよ…今回十兵衛がすることは簡単だ。 創達の神姫が囮となって引きつけている間に、十兵衛が超遠距離から目標を撃ち向く。 よく考えれば一番安全なのは十兵衛だ。十兵衛はひたすらチャンスを狙えば良い。 十兵衛に限ってチャンスを逃す…なんて真似はしないだろう。確実に初弾必中だ。 「うん、大丈夫だな…」 「はい!!」 「じゃあ行くよ。凪、十兵衛ちゃん」 創の準備が整ったようだ。 「おう」 「はい!行きましょう」 そして薄暗いワゴンの中。俺と創、その他のメンバーは数台に別れて車内に、十兵衛やミーシャ達は初期位置についていた。 「気分はどうだ、十兵衛」 「はい、大丈夫です」 ごぉぉぉぉぉぉっという音が相応しい風の音。 私は目標到達地点から程よく離れた6階の屋上に来ていた。 後ろには護衛としてヴァッフェバニーがいる。 「え、えと、本当にX2、X3さんで良いんですか?」 私は二人に話しかけた。 「ええ、構わないわ」 「大丈夫よ。X1…いえ、十兵衛さん」 なんでX2、X3なんだろうか。 「それはこの小隊が第X小隊。本来は存在しない小隊だからよ」 と、さっきX2さんが教えてくれた。 「でも、本当の名前とかは…」 「もちろんあるわ、でもそれは私自身が分かっていれば良いこと」 「今回はX2、彼女はX3と呼んで頂戴」 「は、はぁ」 「そうね、この戦いが終わったら教えてあげる」 「わ、分かりました」 「ザ…気分はどうだ、十兵衛」 マスターの声だ。 「はい、大丈夫です」 「もうじき始まる。気を抜くなよ」 「はい!」 「絶対無事に帰って来い!」 「もちろんです!マスター」 漆黒の闇が訪れる…。 闇ととも現われるは、悪魔の歌声を持つ天使。 無数の操り人形を従えて、今日も舞踏会が幕を開ける。 殺戮と言う名の歌にのせて…。 闇、それを見つめる紅き眼差し、その目に映る悪を撃て。 「3・2・1・0!!作戦開始!!」 『ラジャー!!!』 「よし、X小隊展開開始!頼んだぞ十兵衛!X2!X3!」 「X1!十兵衛!いきます!!」 「X2了解!」 「X3了解!」 次回<凪さん家の十兵衛さん第6話『朝靄の紅眼』>ご期待下さい。 第六話も読む
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「スッチーって呼び方は…もはや死語なのだろうか」 「たぶんそうなんじゃない?」 この日記はいきなり突拍子の無い始まり方が毎度のことなのだが、今回のそれはいつもに増して意味不明っぽくてスマン なぜ俺とミコの会話の話題が女性客室乗務員なのかというと、それが今、目の前を通り過ぎているからなのだ。 季節はすっかり冬 そんな寒い日の昼前に俺とミコは空港に来ていた どっかへ旅行に行こうってわけじゃない 今日は俺の親友であり幼馴染の花菱 昴が帰国するって言うんで迎えに来たのだ ちなみにノアとユーナは俺の家で葉月や香憐ねぇたちと帰国歓迎会の準備を手伝っている 神姫素体なのに役にたつのかと疑問なのだが、ノアなら問題なく出来てしまいそうな気がする… 「少し早く来すぎちまったかな」 「予定の飛行機が来るまでどれぐらいあるの?」 「ん~と…」 俺は出国ロビーにでかでかと表示されている電子掲示板で昴の乗るはずの飛行機の到着時間を確かめる 「あ~、あと45分ぐらいか…」 「うええ~、そんなに?」 これには俺も同感だ なんか面白いもんでもあるのなら別なんだが、空港のロビーで45分も無駄にボケーとしておくのは暇すぎる…… ん? なんか面白いもん… 「そうだ、ここって確か隣の建物に神姫センターがあったよな?」 「あ、そういえば来るときにみたね」 そうなのだ 今の御時世、国際空港となれば土産屋やコンビニなど多少のものはあるのだが、ここの空港にはレスティクラムセンターや神姫センターがあったんだった 日本の情報技術や映像関係の技術は世界に誇るものがあるからなぁ… 30年前だって世界の先進国では「OTAKU」や「MANGA」って言葉が通じてるんだから……なんか日本って凄い国なのかどうだかわからんな; 「行ってみるか?」 「もっちろん! にゃはは~、リーグ戦以外の試合は久々だから腕がなるよ~w」 「そんでもって今のトコ10連勝ってか」 あれから時間にして25分ほどたった リーグ戦でもないのでフリーバトルで匿名参加 外国人観光客ならまだしも日本のリーグランカー相手に俺とミコの名前を出してたら対戦相手が減っちまう。こちらとしても自分より格下の相手をいびりたいわけじゃないので手加減はしているんだが……… わざと負けるのも悔しいので、せめて『瞬殺はなし』ぐらいのハンデでやっている(ハンデになるかどうかは別問題) 「にゃははのはぁ~w ご主人様、褒めて褒めて~~」 「あ~はいはい、ヨクデキマシタ」 「むぅ~。心がこもってなさスギ~」 そういってむくれるミコ 「アホタレ。空港みたいな辺境じゃ、お前レベルの神姫なんてそうそう出てくるわけ無いだろうが。勝って当然なんだから見返りも当然少ねーの。ハイリスク、ハイリターンならぬロウリスク、ロウリターンなのだよミコ君」 「ちぇ~。………んじゃさ、ご主人様」 「あん?」 なんか上目遣いでモジモジしながらこちらを見ておられますな… 「もしもファーストランクの神姫とマスターが挑戦してきて勝ったらさ………私のお願い…なんでも…聞いてくれる?」 いきなり何を言い出すんだこの娘さんは…なんでもってなぁ… 「なんでもって…どの位の?」 空港なんでこのままハワイへ二泊三日! なんてのは無理があるぞ? 「ん~そだね~、……今日は私と一緒に寝てくれる…とか」 「………はい?」 「ね、ね、いいでしょ? もしもだよ、もしも!」 なんかそのお願いは微妙にしょぼいような気がするが…ハワイより現実的だわな 「…挑戦してきたらな」 「ホント!? 約束だよ! ゼッッタイだからね!!」 「あ、ああ……」 「よーし!!」 …なんかウチのミコさんが燃えていらっしゃいます 凄いです 119に連絡した方がいいでしょうか? んでもって20分後 「おい、ミコ、そんな名残惜しそうに見るなってば」 「だって、だってぇ~;」 あの後ミコは鬼神の如く挑戦者を千切っては投げ、千切っては投げの総計34連勝 途中はムキになった挑戦者同士でチームを組んで挑んだりしてきたがそれでもミコの怒涛の勢いを殺すことはかなわなかったわけなのだが… 「結局、みんな初心者かサード、よくてセカンドの上ってところだったな…」 「む~ぅ…ご主人様、もう一回、もう一回だけぇ!!」 「だからファーストランカーはそうそうこんなとこに来ないって言ったろ? おまえ、今日はなんでこんなとこにいるのか忘れてないか? もうすぐ時間なんだって」 「それは…そうだけどぉ…(せっかくノアねぇ達がいない今がチャンスなのにぃ…)」 「ファースランカーの神姫と戦いたいなら登録ID使って全国ネットとつながにゃならんし、大体今日はただの時間潰しなんだから…」 「そっか! その手があったね。それじゃあID使おうよ、ご主人様!」 「いや、だからおまえ時間が…」 「ダイジョーブ!! 今の私を止められるのなんてノアねぇぐらいしか思い当たらないよ!!」 ノアには止められるんだな… こんなことなら連れて来るべきだったか… 「ちなみにノアねぇ連れてきててもノアねぇも私と同じこと言うと思うよ。ご主人様はどっちの道こうなる運命なんだってば」 「…ショボイ運命なんだな」 仕方なく俺はバトルシステムのコンソールに入るとIDを入力する MASTER NAME 橘 明人 MASTER ID ************ これでいつものセットアップ画面に繋がる 登録神姫選択では勿論ミコを選択 条件はフリーバトル、ファーストランカー希望で『お遊び感覚の練習試合』ということを掲示しておく 「これでいいな?」 「うん! OKだよ。物分かりのいいご主人様ってス・テ・キ♡」 ゲンキンなやっちゃなぁ~ 「言っておくが5分以内に挑戦者が現れなかったら中断するからな。昴を待たせちゃなんのために早めに来たのかわかんねぇだ…」 「きたよ?」 「ろ?」 画面を見ると “CHALLENGER”の表示 「…マジかよ」 「私達がリーグ戦以外で試合するなんてエルゴ以外じゃあんまりないもん。私だって伊達に「ガンブレイダー」で通ってないんだから、普通興味が出るでしょ?」 それはそうだろうが… なんなんだろうか…なんだか嫌な予感がする…… 気のせいか? 「それより待たせちゃ悪いよ。早く終わらせるんでしょ? ご主人様、GO! GO!」 「あ、ああ……」 ミコに促されるかたちで俺は決定ボタンを押した 案の定俺の勘ってのは当たりやすいって事が証明された 「右方向からミサイル4!」 「うそ? また!?」 言ってる間にも接近してくるミサイル ホーミングモードが精密なタイプだ さっきからうっとおしいことこの上ない 「逃げ切れん…迎撃しろ!!」 「りょ、了解!」 すかさず両手のサブマシンガンで迎撃するミコ 一つ、二つ、三つ…もう一本は… “シュン!” ミコが打ち落としたミサイルの爆炎の中から残りの一機が飛び出してくる 「クッ!!」 この距離では打ち落としても爆風にやられる被害が大きい ひきつけてから緊急回避に移るミコ 間に合うか!? “ドガァァン!”っと地面にぶつかり爆発するミサイル ミコは!? 「きゃあ!!」 「ミコ!!」 何とか直撃は避けたようだがミコは爆風で地面をゴロゴロと転がる 「大丈夫か!?」 「う、うん…なんとかね…でも今までとは全然レベルが違いすぎるよぅ…」 確かにそうだがやはり少しおかしい これだけのレベルなのに俺はこの神姫をリーグ戦では見たことがなかった 普通高いランクの神姫とマスターには戦闘における特徴や癖という戦闘パターンがあるものなのだが…俺の経験上、これほどの実力をもつリーグランカーの戦闘パターンとはどれも一致しない しかも… 「こっちは名前を明かしているのに相手が匿名とは…」 そう、相手のマスターは名前を匿名設定にしている 俺はファーストランカーのマスター達とはけっこう顔見知りなので彼らが俺相手に匿名設定にするとは考えにくい… 「非公式バトルでならしたランカーか…あるいは…」 「…久しぶりだな…スケイス…」 「!!」 「え?」 俺が二の句を上げないうちに先ほどの爆煙の中からミサイルを撃ち込んできた相手が姿を現す タイプストラーフ 背中に背負った六連式ミサイルポッド以外は基本武装は通常のストラーフのものと変わらないんだが…一つひとつの装備のパワーや移動速度が通常の非じゃない…しかし違法改造でもないみたいだ その横のウィンドウには俺のよく見知った顔が映し出されていた 「……アル」 「……その呼び方はやめろ。ゴレに聞いたのだろう? 私はお前の敵だ」 ウィンドウに映ったエメラルドグリーンの目が俺のことを睨みつける 「お前にとって私は八相の『マハ』だ。それ以上でも以下でもない…」 まるで俺とは言葉での和解はありえないとでも言っているような目だ 「ご主人様…『マハ』って…」 「ああ…第六相、誘惑の恋人-マハー」 「誘惑の恋人…か。…今となってはその呼び名も意味を成さないが」 そういいながらマハは目を閉じた 「一つだけ聞いておいてやろう……どうして私を捨てた?」 「え?」 マハの言葉にミコは自分の横、俺が映っているウィンドウ方を振り返り、俺の顔を見てくる 無言だが「本当に?」というような不安そうな顔だ… 「…………」 「…五年前…どうしてお前は私に何も告げず、レスティクラムの世界から…私の前から去ったのだ……答えろ…スケイス!!」 「…………」 俺は何も言わない いや、何もいえなかった…ただ一言 「……お前には…関係ない…」 そうとしか言えない 「……なるほど、関係ない…か。それがお前の答えなのだな?」 そう言うとマハは再び目を閉じ、鼻で不敵に笑った 「言い訳ぐらいは聞いてやろうかと思ったのだが……いいだろう。宣戦布告を兼ねて貴様のそのオモチャ、叩き壊してくれる!!」 “ブィーーン”“ブィーーン”“ブィーーン” 「!!」 マハが言葉を言い終えるや否や、バトルシステムの異常を伝えるアラームが俺のコンソールスピーカーより流れ出した 「ご、ご主人様!?」 「これは…システムハックか!」 「ご名答、しかしこのオモチャのバトルシステムもレスティクラムと同等のレベルの対システムハック用のファイヤーウォールがあるようだな…。フィドヘル特製のハックシステムなのだが、お前のオモチャが一発でオシャカにならんとは…」 そりゃそうだろう 簡単に破られるようなファイヤーウォールなら神姫バトルはこんなに進化を遂げるもんかよ 「しかしスタンモードは解除できたようだ。これならお前のオモチャの運命はすでに決まったも同然だな…」 スタンモードの解除…か…。確かにそいつはちとヤバイかもな 「どういうことなの? ご主人様…」 不安そうに俺のことを見てくるミコ 「通常、武装神姫のネットワーク対戦、及び電脳戦ではバトル中こそダメージや損傷はあっても、本来のリアルの素体や元のデータには影響を及ぼさない…これが『スタンモード』だ。これはレスティクラムのナノロットユーザー同様、神姫自体の危険性を考慮した上でのシステムなんだ。ようするに、その役割は人で言うところの生命安全装置、神姫で言えばデータ保存システムになる。これが作動しなかった場合…」 「し、しなかった場合…」 「ナノロットユーザーは精神リンクで脳波を伝って本来の体にもダメージが現れる。大分昔の映画に『マトリックス』ってのがあってな、それと似たようなもんだ。神姫の場合はデータブレイク、つまり『削除』される…最悪のケースなら神姫も人も……死に至る」 「え…」 ミコの顔色が一気に蒼白になっていく 「オモチャ相手に死を語るか…お前の二つ名も落ちたものだな…スケイスよ…」 あくまでマハの顔は冷徹だった 「無論、途中棄権など生温い終わり方もナンセンスだ。離脱規制をかけさせてもらった。しかし、お前とてそこまで腰抜けになってはいないだろうがな…」 逃げ道まで塞ぐ…か なんちゅうえげつない… 「よくもまぁこんなことが出来たもんだぜ。お前だってそこのストラーフのマスターなんだろ?」 俺はさっきから何も言わずにうつむいているマハのストラーフを見ながら言った。武装神姫はただロボットやAIなんかじゃない。感情だってあるし自我だって存在するんだ。マスターであるなら誰だって分かる事だろうが!! 「ああ、これか…こいつもただのオモチャに過ぎん。私の言う通りにお前のオモチャとの対決のときのために訓練を積んでやったのだが…所詮はAI……なにがそんなに楽しいのか私には理解できん…こいつら武装神姫も…私達を…私を捨てこいつらにかまうおまえもな!!」 言うと同時にストラーフはこっち目掛けて突っ込んで来る 「チッ、接近戦に持ち込むつもりか!」 こちらとしては接近戦はまずかった いくらミコが接近戦も出来るとしてもそれはセカンドリーグレべルでのこと 相手のストラーフはファーストレベルの神姫、それに上位に食い込むぐらいの…だ 正直、分が悪すぎる 「くっ、ミコ! 相手の実力はノアクラスだ! 俺の指示をよーく聞かないとホントにオダブツものだぞ!!」 「の、ノアねぇと同じって…そ、そんな…」 そりゃびびるだろうよ…お前はこれまで何千回とノアと模擬戦やって一回だってまともに勝ったことはなかったもんな… しかも今回はへたすりゃ死んじまうんだから だけどな… 「ミコ、俺を信じろ」 「ご主人様…」 「俺がお前を死なすわけねぇだろ?」 そうさ、死なすわけにはいかない…ミコは俺の大切な神姫…俺の家族なんだから 「……うん!!」 そういってにっこり笑うミコ …やっぱりお前は笑顔の方が似合うな 「フッ!!」 相手のストラーフの斬撃がミコを貫かんと迫る 「一歩半下がる!」 「了解!!」 “ビュアッッ!!”っと鋭い音と共にストラーフの突きが空を切る 「フッ! ハァッ! ヤァァァァッ!!」 「右! 斜め左下! しゃがめぇ!!」 俺の読み通りの斬撃の軌道 俺の指示に忠実に従うミコ 「クッ!」 そして絶え間ない斬撃を何とかかわしていく しかし、それで精一杯なので反撃に出ることはできない これじゃジリ貧だ…何とか手を打とうにも俺も指示する為にストラーフの斬撃から集中を切らすことが出来ない まいったな… 「ほんと参ってるみたいだな、明人」 ああ、ほんとにまいったよ……… って、ん? スピーカー越しじゃなくてリアルな音声で聞こえるこの声は… “CHALLENGER” 「ハァァァァァァッ!!」 「!!」 「え?」 突如ミコとストラーフの上から聞こえてきた第三者の声 間髪いれずにいきなり現れた影は手に持った剣をストラーフ目掛けて振り下ろした 「クッ!!」 突然のことに焦りながらもバックステップで斬撃をかわすストラーフ 「かわしましたか。流石にやるようですね…」 ミコの前にあった影はそういいながら立ち上がった 銀色の鎧を纏った騎士だった その姿はまるで… 「『問おう。あなたが私のマスターか…』なんてお約束のボケはかましてくれないからな。俺のランは」 今度はスピーカー越しに聞こえてくる声 どうやらこの神姫のマスターのようだ 「……言わんでも分かってる」 「嘘つけ。ほんとはそっくりだと思ったくせに」 「どうでもいいが、せっかくの再会の第一声がそんなどうでもいいつっこみかよ…」 「俺は野郎との再会まで感動的にするほどカッコつけでも暇人でもない」 「……それは親友相手でも有効なのか? 昴」 そう、さっきの声の主、この銀色のサイフォスのマスターは昴だったみたいだ 「え…この人がご主人様の幼馴染で親友の花菱 昴さん?」 サイフォスの横に映っているスバルを見ながらミコが俺に質問する 「ああ、そうさ。俺が明人の初代パートナー、花菱 昴だ。君は…ミコちゃんだね?」 「え? どうして私のこと…」 「とりあえず話は後だ。今はこっちのシャレにならない痴話ゲンカを止めないとな…」 「痴話ゲンカって…」 「よう、アル! 久しぶりだな!」 そういってマハとストラーフの方に視線を戻す昴 「……メイガス…か」 「え? メイガスって……そしかして八相の-メイガス-!?」 驚くミコ そういやそれも言ってなかったな… 「フッフッフ~、サインは後からにしてくれよ? ミコちゃんw」 余裕だなコイツは… 「ともかく! アル…いや、今はマハのほうがいいか……今日のところは引き上げてくれないか? 俺は無駄な殺し合いはしたくない主義なんだ。それが昔なじみならなおさら…な」 「昔馴染み…だと? キサマもスケイス同様、こちらの世界を捨てておきながら勝手な言い草だな」 「…確かにそうだ。弁解しょうもねぇよ」 大袈裟に肩を上げてジェスチャーする昴 「………興ざめだ。今日のところは見逃してやろう…」 マハがそう言うと踵を返すストラーフ 「ありがたいね。こんなハプニング、時差ボケには結構くるもんだからw」 何でお前はそこで茶化すかなぁ… 「……次はないと思え…スケイス…」 そういい残すとマハとストラーフは俺たちの前から姿を消してログアウトした 「始めまして。モデルサイフォスのランスロットです」 「……………」 「……………」 そう言いながら笑顔で握手を求めてきた金髪美女に俺とミコは唖然としていた 口なんかホゲ~っとあいてふさがらねぇ 「あ、あのぉ~……;」 なかなか握手に応じようとせずに固まっている俺たちに金髪美女の笑顔はだんだん不安げな顔になっていく 「えっと、昴君。どっからつっこめばいいんだ?」 「だからさっきも言ったろ? 俺のランはボケやジョークとかは苦手なんだって」 「じゃあ…この人がさっき私を助けてくれた…銀色の騎士さん!?」 「はいw」 あ~あ~あ~ なんだか訳が分からん こんがらがりそうだ なんだ、要するにあれか? このランスロットって子も、つまりは… 「人型神姫インターフェイスの試作機…ってことなのか?」 「大当たりー!」 あ、そう……当たっちゃったのね…… 「なんだよ、お前の爺様から聞いてないのか? 俺はてっきりもう知ってるものだと…」 「いやいやいやいや!! つうかお前が神姫のマスターになったってのも今、始めて知ったから!!」 「だってお前の爺さんがモニターになってくれって頼むもんだから…」 「…どれぐらい前だ?」 「三ヶ月前」 あのジジイ… わざとだな… 「じゃあ私の妹になるわけだね? ヨロシク! ランスロットちゃんw」 「えっと、まぁとりあえずヨロシクな、ランスロット」 「ええ、よろしくお願いします。それと…私のことはランとお呼びください。明人様、ミコ姉様」 「そか、ならそう呼ばせてもらうけど…俺のことも明人でかまわないよ。『様』なんてつけられるのはやっぱり…がらじゃないんだ」 「そう仰っていただけるのなら…では『明人さん』でw」 う……なんちゅう上品な微笑ですか!! イギリスの上級貴族って感じだな 正直、サイフォスにはいい思い出は無いのだが…いやいや、こりゃまたマジで綺麗…… 「言っておくが…惚れるなよ?」 「あ、アホタレ。いきなり何を言い出すんだ…」 「いや、いまのは明らかに見とれてたぞ。ランは俺のだからな」 「ンなわけないだ…いたっ! いたたたたたたた!?」 何か知らんが左胸が突然痛い!! “ダダダダダダダダダダ!!”と少し小さめの銃声 「っておい! ミコお前何やって…っていたたたたたた!! そ、そんな至近距離からマシンガン打ち込むな!!」 俺の胸ポケットにいたミコは俺の方を向きながら無言で黙々とマシンガンをフルオートで打ち続けていた… 追記 「そういえばご主人様」 「いたたたたたっ…あん? なんだ?」 「あれってさ、あたし達の勝ちだよね?」 「は? 何のことだ」 「だから、マハさんとのバトルだよ」 「いやおまえ…明らかに劣勢だったろ…」 「じゃあこれは?」 そういって一枚の紙切れを俺の手に差し出すミコ 「なんだこれ?」 「勝敗記録のレシート」 「どこでこんなもん…」 「センターの受付のお姉さんに貰っといたんだよ。そんなことよりさ、そこ見てよ」 俺はミコが指差すところには… 「んーと……『相手の戦闘離脱によりギブアップとみなし勝利』……」 「ね? ね? ほら! 勝利って、勝ちって書いてあるでしょ!?」 「いやでもおまえ…」 「どんなことでも勝ちは勝ちだよ! 勝負の世界は現実だけを求めるんだよ!! そうでしょ!」 ここぞとばかりに捲くし立てやがって……ん? 「ご・主・人・様ぁ~? 約束どおり、お願いきいてくれるんだよねぇ~? ん~?」 「……残念だったなミコ」 「へ? なにが?」 「レシート、良く見てみろって」 「良く見てみろって…どこを?」 「ここだよ、ここ」 「ええっと……『対戦相手……匿名……サードランクぅぅ!?』」 「そ、あいつらはサードランカーなんだよ」 「だ、だってだって! おかしいよ! あんなに強かったのに!!」 「あいつにとって今日のバトルは宣戦布告だって言ってただろ? ようするにネットワークサービス用のIDさえ手に入れられればリーグランクなんてどうでもいいってことさ。確か約束は『ファーストランクの神姫とマスターに勝ったら』…だったよな?」 「そ、そんなぁ……で、でもでもぉ!! ご主人様だってあのストラーフのことノアねぇレベルだって言ってたじゃない!!」 「残念だったなぁミコ君。 勝負の世界は現実だけを求めるんだよ 」 「そ、そんなのないよぉぉぉ~~~!!」 続く メインページへ このページの訪問者 -
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デザイナー 声優 神姫解説 性格セリフ一覧 親密度○時イベントのオーナーの呼び方 神姫ハウス内コミュニケーション ステータス情報 覚えるパッシブスキル一覧 神姫固有武器補正 神姫考察 総評・運用 神姫攻略法 お迎え方 アップデート履歴 コメント デザイナー nuno(コナミ社内デザイナー) 声優 福井裕佳梨(トップをねらえ!2:ノノ、天元突破グレンラガン:ニア・テッペリン、ルーンファクトリー3:シア 他) 神姫解説 神姫バトルの黎明期に開発された、忍者をモチーフとした神姫。武装は忍び装束をベースにした柔らかなシルエットを描き出すデザインで統一され、和のイメージを色濃く描き出している。バトルスタイルも至近距離で会心の一撃を決めていく隠密タイプの戦法を得意としている。AIは寡黙かつ従順な性格付けで、主君に忠誠を誓う忍者のごとくマスターに付き従う傾向が強い。 名称:忍者型MMSフブキ(MMS Type Ninja FUBUKI) メーカー 素体:Group K2 武装:Group K2 型番:GK06N2 フィギュア発売:2008年12月26日 主な武装:忍者鎌"散梅"(文字通りの鎌だが、バトマスの分類上は小剣になっている。バトコンでは片手斬撃) 忍者刀"風花"(読みは「かざはな」。バトコンでは片手斬撃) 飛苦無"蓮華草"(読みは「れんげそう」。飛苦無(とびくない)とは、投げナイフのことと考えれば良い。なぜわざわざ「飛」とつけているのかといえば、苦無は手裏剣ではないため本来は投げないからである)。だがバトコンでは初の投擲武器として実装された。) 大手裏剣"白詰草"(読みは「しろつめくさ」。クローバーのこと。バトコンでは投擲武器。) 別名「フブキさん」「忍者子」「忍子」「フブッホ」。 元々は「バトルロンド」の初回ログイン特典キャラクターだったが、ファンからの要望により「注文数4000で商品化が決定される」というイベントが開催され、結果コナミスタイル専売にて商品化されたという経緯を持つ。 ちなみに後年のバトマスにおいても「ゲームでの登場が先でフィギュア発売が後になる神姫」はいたが、ゲーム登場時点でフィギュア発売の予定が全く存在しなかったのは本機くらいである…。 その関係からか、登場自体は神姫NETのサービスであるジオラマスタジオと同時(初登場が2006年の神姫NETジャーナルで、マオチャオ達第2弾の発売よりも前)と言えるほど古いにもかかわらず、フィギュアとして発売されたのはその2年以上後(2008年12月)という長い間があった。 それだけにリアル世界でも根強いファンが多く、中にはガレージキットの専用武装や、果てはチタン製素体ボディまで創ってしまった剛の者すらいるという。 ちなみに愛称のうち「フブッホ」とは、漫画「武装神姫2036」でフブキ初登場時の自己紹介時に転んで雪に顔を突っ込んでしまい、その時の悲鳴?をマオチャオハウリンやら周りにネタにされたのが由来。 無印版の早期予約特典として「忍襟布”陽炎”」が付属。 無印版の腰帯は腰の固定がややきつく破損報告が相次いだため、その後の再生産版「黒き翼Ver.(2009年12月18日)」では、一部塗装などの仕様変更と共に修正されている。 黒き翼Ver.とほぼ同時に発売されたリペイントモデル・ミズキの他、FRONT LINE社の協力で後継機として開発されたフブキ弐型およびリペイントモデルのミズキ弐型が存在する。共にコナミ内製の武装神姫最後の新作であったが、何故かnuno氏ではなく島田フミカネ氏によるデザインとなっており、発表当時は少なからず物議を醸した。 余談ながらこのフブキ/ミズキ弐型の発売(2012年2月23日)から約1ヶ月後、アーンヴァルMk.2テンペスタ/ストラーフMk.2ラヴィーナの両フルアームズパッケージの発売(同年3月15日)をもって、コナミ内製の武装神姫フィギュアはひとまず展開終了となった。 立体としての武装神姫の“復活”は7年後、模型メーカー・コトブキヤによるエーデルワイスの登場を待たなくてはならない。 展開初期以来の人気神姫だけに、公式媒体にもかなりの確率で出演(カメオ及び装備だけの登場も含む。完全に出ていないのはノベライズ版「神宮司シリーズ」くらいか)。 アニメ版においても、セミレギュラー「フキ」として声つきで出演している。 ちなみに後継機のはずの弐型たちはといえば、その登場時期があまりにも遅過ぎた(当時既にバトルロンドはサービス終了している)せいで、ほとんど出番がない様子。バトコンでの救済が期待されるところである。 性格 命令に対しては常に従順、かつ寡黙で必要以上のことをしゃべろうとしない。 最初は他人行儀な物言いだが、Loveが上がるにつれて感情を表に出すようになっていく マオチャオ型を前に「可愛いにゃー…」と口走ってしまったり、台詞を途中で噛んでしまったり、バトル中に「ニンニン…」と呟くなどの一面も。 セリフ一覧 + 白神流忍術の名にかけて! ログイン時 通常(朝) おはようございます。朝からお顔を拝見出来て幸せです。では、何をしましょうか? おはようございます。朝早くから私と過ごしていただいて、嬉しく思います。今日も1日、頑張ります。 通常(昼) こんにちは。ご用がありましたら、何でも言って下さい。では、よろしくお願いします。 こんにちは。…あ、あの、その、…いえ、何でもありません。気にしないで下さい。 通常(夕) こんにちは。お腹は空いてませんか?おやつを出せる忍法を習得中ですので、もう少々お待ち下さい。 こんにちは。そろそろ日が暮れそうですね。明るいうちに出来る修行で、更なる鍛錬に励みましょう。 通常(夜) こんばんは。日も暮れて参りましたが、バトルの火は消えません。張り切って参ります! こんばんは。私は忍者ですので、暗闇での任務はお任せ下さい。では、命令をどうぞ。 通常(深夜) こんばんは。夜遅くまで鍛錬なさるとは、頭が下がります。私も、戦績に泥を塗らぬよう努めて参りますので。 こんばんは。夜遅くまで修行とは、流石です。私も、白神流忍術でバトルを盛り上げて参りますからね。 年始 あけましておめでとうございます。(プレイヤー名)の抱負が達成されるよう私も陰ながら応援させていただきますので…! (ボイス) あけましておめでとうございます。こうしてまた、一緒に新年を迎えられて、嬉しいです。未熟者ではありますが、本年も、宜しくお願いします。 バレンタイン あの…こちら…よろしければお受け取り下さい。大好きな方に、チョコなるものをお渡しすれば、願いがかなうと聞きましたので。 ホワイトデー このプレゼントは…あ、先日のバレンタインの、お返しなのですね。私なんかにいただけるなんて、思ってなかったので、とっても幸せです! エイプリルフール ゴールデンウィーク 夏季 暑くなって来ましたね。しかし、『心頭を滅却すれば火もまた涼し』といいます。私もお供しますので、一緒に耐え忍びましょう。 水着キャンペ ただいま期間限定イベント開催中です。特別に水着を着て戦うようですが…は、恥ずかしいので、私はドロンします! 七夕 ハロウィン お気をつけ下さい、何だか街中物の怪で溢れかえっております。え、ハロウィン?そいつが悪の親玉なのですね 冬季 寒くなって来ましたね。しかし、私達忍者は、堅忍不抜の精神で、厳しい冬も修行をおこなっているのです。良ければ、ご一緒にどうですか? クリスマス クリスマスには毎年子供たちのためにプレゼントを配るサンタという赤い忍者がいるそうです。なんでも一度も配る姿を見られたことがないとか…。その極意、私にも教えてほしいものです…! (ボイス) め、メリー…クリスマス!この言葉を、大切な方にお伝えすれば、特別な一日を、一緒に過ごす事が出来る。とか…私と、二人っきりで過ごしていただけないでしょうか。 神姫の発売日 オーナーの誕生日 お誕生日おめでとうございます。わたしなんかが言うのもおこがましいですが…良い1年になることを、お祈りしております。 神姫ハウス 命名時 呼び方変更 (→決定後) レベルアップ後 MVP獲得 3連勝後 親密度Lv5後 親密度Lv10後 親密度Lv20後 親密度Lv30後 親密度Lv40後 親密度Lv50後 親密度Lv60後 親密度Lv70後 親密度Lv80後 親密度Lv90後 親密度Lv100後 頭タッチ(親密度0~19) (親密度20~39) (親密度40~59) (親密度60~79) (親密度80~) 胸タッチ(親密度0~19) (親密度20~39) (親密度40~59) (親密度60~79) (親密度80~) 尻タッチ(親密度0~19) (親密度20~39) (親密度40~59) (親密度60~79) (親密度80~) 通常会話 武装カスタム 戦闘力Up時 戦闘力Down時 武器LvUP時 素体カスタム 親密度LvUp時 限界突破時 出撃時 入れ替え バトル開始時 貴方達に恨みはありません。私はただ、任務を遂行するのみ → バトル中 撃破時 コンテナ入手時 被弾時 オーバーヒート時 スキル発動時 (能力強化系) (HP回復系) (デバフ系) (攻撃スキル) チャーミークリアボイス まいります。白神流 忍術 魅惑の 舞です ニン ニン! 被撃破時 次出撃時 サイドモニター 応援時 交代時 被撃破時 バトル終了時 1位 → 2位 → 3位 → 4位 → コンテナ獲得時 1位 2位以下 LvUP時 神姫親密度 マスターレベル 神姫ショップお迎え時 はじめまして。私なんかでがっかりしていないでしょうか。ご期待に沿えるよう、頑張ります。 はじめまして。これから、命を懸けてお仕えさせていただきます。今後とも、よろしくお願いします。 ゲームオーバー時 バトル、お疲れ様でした。次の任務もまた、私にご命令をいただけると嬉しいです。それでは、次の出陣命令、お待ちしています。 その他 カラフルコンダクト 超忍法 白神流の名にかけて 完璧に 仕事を果たしますよ 密やかに 思いを抱いてます + リセット開始 神姫の想い、大切に。 + 選択した神姫をリセットします。よろしいですか? リセット開始 え…リセットですか?すみません、私の聞き間違いだと良いのですが…もう一度仰って頂けますか? はい を押す っ!そうですか。無礼を承知で言わせて下さい。考え直しては頂けませんか?修行してもっと強くなりますから。離れたくないんです!あたし… はい を押す(二回目) そうですか…そこまで意志が固いのであれば、仕方ありません。未熟なあたしが全て悪いのですから…今までお世話になりましたっ!ではお達者で…! リセット完了 はじめまして。これから、命を懸けてお仕えさせていただきます。今後とも、よろしくお願いします。 リセット取消 止めて頂けるのですか?御慈悲を頂き、有り難うございます。失望されないように今後も精進していきます! 親密度○時イベントのオーナーの呼び方 マスター・お屋形様・お兄様 神姫ハウス内コミュニケーション ステータス情報 親密度Lv1 ATK DEF SPD LP BST N 30 35 100 350 150 R 35 40 110 400 200 SR 40 45 120 450 250 UR 45 50 130 500 300 親密度Lv100 ATK DEF SPD LP BST N - - - - - R - - - - - SR - - - - - UR - - - - - マスクステータス 1/s ジェム回収展開速度 ブースト回復量 ダッシュ速度 ダッシュ時ブースト消費量 ジャンプ時ブースト消費量 対空時ブースト消費量 防御時ブースト消費量 N 1640 160 1230 95 60 20 120 R 1320 115 80 40 130 SR 1410 135 100 60 150 UR 1500 155 120 80 170 覚えるパッシブスキル一覧 忍びの技術【フブキ専用】ダッシュスピードと弾速アップ 早熟型のパターンで覚えるパッシブスキル よろけ軽減[小]よろけの行動不能時間が短くなる 攻撃力アップ[小]攻撃力を上げる ブーストアップ[小]ブースト時の移動スピードアップ 防御力アップ[小]防御力を上げる スピードアップ[小]移動する際のスピードを上げる 攻撃スピードアップ[小] *要限界突破(L110)攻撃時のスピードが上がる ため時間減少[中] *要限界突破(L120)ため時間を減少する 通常型のパターンで覚えるパッシブスキル 攻撃スピードアップ[小]攻撃時のスピードが上がる 遠距離攻撃追加ダメージ[小]遠距離武器の攻撃にダメージを追加 ブーストアップ[小]ブースト時の移動スピードアップ よろけ軽減[小]よろけの行動不能時間が短くなる 体力最大値アップ[小]体力の最大値を上げる 防御力アップ[小] *要限界突破(L110)防御力を上げる 攻撃力アップ[中] *要限界突破(L120)攻撃力を上げる 晩成型のパターンで覚えるパッシブスキル 攻撃力アップ[小]攻撃力を上げる 攻撃スピードアップ[小]攻撃時のスピードが上がる 射程増加[小]攻撃距離が伸びる ブーストアップ[小]ブースト時の移動スピードアップ ため威力増加[中]タメ攻撃の威力を上げる ため時間減少[小] *要限界突破(L110)ため時間を減少する ダッシュブースト消費量減少[中] *要限界突破(L120)ダッシュする際のブースト消費を減少する 神姫固有武器補正 ※レアリティが上がる毎に得意武器は-5%、苦手武器は+5%される。数字はレア度Nのもの。 得意武器 +30% 片手斬撃武器・投擲 苦手武器 -30% 双斬撃武器・両手斬撃武器・格闘打撃武器・双頭刃斬撃武器・片手ライトガン・腰持ちヘビーガン・肩持ちヘビーガン -70% 下持ちヘビーガン 神姫考察 攻撃力 神姫自体のATK値は低く、パッシブスキルの補助込みでもかなり低い。得意武器の片手斬撃武器でATK値を増やせるが、当てにくいのが難点。唯一の遠距離武器である投擲は当てやすいがATK値と射程が難点。総じて攻撃面は低め。 防御力 神姫自体のDFE値は低く、パッシブスキルの補助込みでもかなり低い。当たらない立ち回りを。 機動力 神姫自体のダッシュスピードがかなり速く、ラプティアスと同速で全神姫中最速。しかも実質常時発動の専用スキルでさらにダッシュスピードが約10%上がるため、全域フル稼働のラプティアスに次ぐ速さとなる。 各種ブースト消費が大きめだが、この速さを考えたらお釣りが出るレベル。 総評・運用 速い。以上。 本当にそれしかなく、火力はないわ脆いわでフブキらしいと言えばそうだが…。 専用スキルはダッシュスピード約15%アップ、弾速約20%?アップ。 一撃離脱もがん逃げも圧倒的スピードで難なくこなせるが、一回のミス(被弾)が致命傷になりやすい。 忍者らしく基本は隠密重視で立ち回り、ここぞという場面(LPが少ない神姫に止めを刺す等)で強襲。すぐさま離脱の一撃離脱を常に心がけたい。ちょっとでも欲張るとカウンターで痛い目に遭うので、仕掛けるのに失敗しても直ぐに離脱しよう。 機動力があるので一人に追われても難なく凌げるが、流石に複数人に追われると逃げ場所が無くなってあっけなく撃破されてしまいやすい。 順位や立ち回りには細心の注意を。 慣れないと思ったら機動力は落ちるが近接武器メインならアルト姉妹を、遠距離武器メインならアークも検討しよう。 神姫攻略法 機動力だけは本当に高い。逃げに徹せられるとタイマンで追える神姫は一握りに限られているので、全員で狙う状況を作らないといけない。 逆に攻め続けないといけない状況には弱いので、相打ち覚悟で両手斬撃や双頭刃などのよりダメージが高い武器を当てられればたいていはこちらのが有利になる。純粋な殴り合いにも弱いのは向こうも承知かつ避けたいので、攻めて来る頻度が落ちるのも利点。 お迎え方 2021/10/8~から神姫ショップに登場 アップデート履歴 2021/11/15 10 00~ 黒き翼Ver.の武装(「極意之巻物」「面隠し"闇狐" + 極意之巻物」「忍装束"紫苑" + 忍襟布"陽炎"」「忍者摺"紫蘭" + 黒き翼」「忍者摺"紫蘭" + コンしっぽ + 黒き翼」)追加 コメント コメント失礼します フブキさんお迎えまで...毎回五連回して35連目にして初Rでお迎え その後追加80連目にしてようやくURでお迎え出来ました -- AKA (2021-10-16 23 10 50) カラフルコンダクト 訂正依頼 一番上のは 超忍法 白神流の名にかけて -- 名無しさん (2022-02-04 19 51 11) 燃焼ポットで飛行逃げ撃ちすると強い -- 名無しさん (2023-05-07 19 29 34) 名前 コメント
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考えている、アタシこと豊嶋神無は考えている。誰の事を? それはまあ、彼女・・・じゃなくて彼の事を。 「だってさあ、男の子なんだよ?」 数学の吉田先生の方程式をガードするようにノートを立て置き、そんなふうに呟く。はっきりとしない感情。窓際席ゆえの暖房と、意外に暖かい冬の日差しの二重奏にぼんやりするのとはまた別の、良いような悪いような心地。 微音、叩。 「神姫って普通、女の子じゃないの・・?」 ロウの姿を思い浮かべる。顔の造形は女性的。あまり詳しくはないけれど、普通の神姫と変わりはないように見える。けれど、胸はない。父さん曰く「強化改造の影響」ということらしいけれど、そうじゃない気がする。まあ、男か女かなんて、“下の方”を調べてみればわかるはずなんだけど・・ 「できる訳、ないじゃない・・・」 ただ“その辺り”を見つめるだけだって何か恥ずかしいから、わざわざロウ用のショートパンツ作った位なのに、そんな事したら恥ずかしくて死んじゃうよ。 微音、叩、叩。 「大体、触るのだって怖いのに・・・」 ロウは普通の神姫より頑丈らしいし、その手足、後【背中の手】は大きいけど、首とか二の腕とかなんてちょっと触ったら折れちゃいそうなほど細い。すぐ痛がらせちゃいそうで触れない。でも、あの髪くらいなら触っても大丈夫かな? でも、何かヘンな事言われそうで、それが、また、怖い。 「・・・でも、今日手に触っちゃったんだよね・・・。あんな事くらいで喜んじゃって。そう言えば、ショートパンツあげた時もバカみたいに喜んでて・・・」 微音、叩、叩。軽音、叩、叩。快音、叩叩叩叩叩。 「・・・ってうるさいなあ、さっきか・・・ら?」 その音がした方を振り向く。それは窓の方、よく考えればアタシが窓際、しかもここ3階、つまり人がいる訳ない方向。振り向いたら確かに人は居なかった。でも、“居た”。 快音、叩、叩叩。 「・・カンナっ!」 「・・・え、ロウっ!?」 直ぐさま窓の鍵を外して、そっと開く。と・・・ 「カンナぁっ!!」 「うわっ!?」 急、飛込。回避。 「おりょ!?」 通過落下転倒、横転横転、巻込横転薙倒横転転倒横転、横転横転横転。 「きゃあっ!?」 「なんだぁ!?」 「うわ、机が!?」 横転激突、停止。 「ううううぅう・・・」 「・・・ロウ、あんたって・・・」 窓からアタシ目掛けて飛びかかってきたロウを避けたら、ロウはそのまま教室の中に突っ込んで机を吹っ飛ばし、クラスメイトの足を引っかけ、ホコリを巻き上げながらすごい勢いで転がって、教室の反対側の壁で止まった。ノートも教科書も机も椅子も薙ぎ倒されて、教室はメチャクチャ。クラスメイトのあびきょーかんの声。どういう勢いで飛んできたの、あんた。 「豊嶋さん! これは一体なんです!?」 「あ、吉田先生! ええと、まあ、うちの犬です」 「犬ぅ?」 「あー、いたかった。カンナよけるなよ~」 「犬って、神姫じゃん、これ」 クラスメイトが指摘する。いやまあそうなんだけどそうじゃないと言うか・・・。 「・・・ところでさ、ロウ、何しに来たの?」 「カンナのべんとーとどけに!」 確かに大きな手の中にアタシのお弁当箱が握られてる。とりあえず近づいてそれは渡して貰う。 「・・・で、用が済んだなら早く帰る!」 「は~い!」 疾走、跳躍、飛込、消。 また同じ窓から、ロウは北風みたいに飛び出していく。あんまりに唐突な出来事に、誰も声が出せないみたい。 「・・・ええと、まあ、ごめんなさい」 残りの授業時間は、お説教と教室の片づけだけで終わった。 「まったく、あいつったら・・。夕飯ヌキにしてやる」 「まあ、そのお陰で神無はお昼抜きにならなくて済んだんじゃない」 「このぐっちゃぐちゃの寄り弁見てもそんな事言うの?」 机を向かい合わせにしていた秋子にそう言い返す。ご飯とミニハンバーグとポテトサラダとオレンジが混ざっててすごい味がするんだよ、これ。 「でも、神無が神姫持ってるなんて知らなかった。あ、でも犬飼ってるって言っていたね。それがあの神姫?」 「うんまあ・・・。でもあの武装神姫っていうの? あれはしてないよ」 でも、神姫の事であんまり騒がれるのが嫌だったので、秋子も含めて学校では誰にもロウの事は言ってなかった。神姫って高いらしいから、知られると特に男子が騒ぐんだよね。大体あいつみたいなやっかい者の事を人に知られたら恥だし・・・って遅いかもう。 「確かに、神無がそういう事するようには見えない。まあ、私もそうなんだけど」 「え? 秋子にもいるの、神姫?」 「ええ。兄のお下がりみたいなものが、1人」 「どんな性格なの?」 「可愛いよ、人なつっこくて。でもちょっと頑固な所がある」 「ふうん、うちのロウよりはまともみたい」 「そうでもないのだけど・・。でもそんなに変なの、あの神姫?」 「うん、すごく変。だって“男の子”なんだよ? それに騒がしいしものは壊すしごはん犬食いだし・・・」 「男の子? そんな事もあるの?」 「あるみたい」 「ふうん。でもそう、“男の子”ね・・」 「?」 「なあなあ!! あの神姫って豊嶋のものなんだろ? カッコイイな!」 「へ!? あ、うん?」 突然、甲高い声が耳元を直撃。見上げると居たのはクラスメイトの男子。ええと確か相原武也君(男子の名前なんて全員は覚えてないや)。いきなり馴れ馴れしく話しかけられて、ちょっとびっくりする。 「俺も神姫持ってるんだけどさ、あのハウリン、見た事もない武装だよな? 何処で手に入れたんだ? バトルやらないか?」 「いや、あれ父さんが会社から連れてきた試作品?だから売ってないし、そのバトルってのもちょっと出来ないんだよね。アタシはマスターとか言うのじゃないし」 「え!! 豊嶋の親父って神姫メーカーに勤めてんの? 嘘!? 何か非売品パーツとかも貰えるの!? いいな、俺にも少し分けてくれないか?」 あ、やばい言っちゃった。だから神姫の事言わないでいたって言うのに。 「いや、そういうのはちょっと・・・」 「じゃあ、バトルだけでもしない? レギュレーションがマズイならフリーバトルでいいしさ。あ、もちリアルバトルは無しな、今修理中のパーツがあるしセッティングも・・」 「いやだからムリなんだってば・・・」 なんかよくわかんない単語の連続と、そもそもよくわかんない男子に話しかけられるウザさでちょっと嫌になる。けど相原君のこの勢いをどうやって止めれば・・・ 「・・・私の神姫で良ければ、会わせてあげてもいいわ。直接、バトルは無理だけれど、装備やバトルデータ共有で参考にはなると思う」 「何? 法善寺も神姫持ってるの!? だったら・・今度お前んちに行ってもいい?」 「え、あの、いやそれは・・・」 「お~い武也、体育館行こうぜ!」 「ああ、今行く! じゃあ、法善寺また後でな!」 そう言って、友達に呼ばれた相原君は教室から走り去って行った。 「う~ん、言うだけ言って帰るし。でも、良かったの秋子? あんな事言っちゃってさ」 「・・・私の神姫、ちょっとバトル嫌いなだけだから」 「いやそうじゃなくって相原君を家に呼ぶって話。秋子って、男の子と遊ばないでしょ普段。神姫の事も隠してたんだから、そっちに興味ある訳でもなさそうだし。アタシを庇ったって言うなら後でアタシが断るよ?」 「そうじゃないの。ただ、ちょっと相原君に興味があるだけ」 「・・・あ、なるほど。秋子って相原君好きなんだ」 「・・ちょっと、興味があるだけだって」 クールな秋子が珍しくしおらしい顔を見せる。そういうのまだ興味ないんだって思ってた。でもそんな事も無いよね。 「うん、わかった。出来る事があったら応援するよ」 「それはいいけれど、神無は、自分の事も考えた方が言いよ」 「へ? どういう、意味?」 「え!神姫での犯行だったんですかあの窃盗!!」 豊嶋甲の裏返った声が、BLADEダイナミクス第4研究部に木霊する。周りの部下に変な目で一瞬見られるが、部長が変なのはいつもの事と、すぐに視線は消える。 『ああ、私がずっと犯人を追っていたんだ。そちらの方は処理出来たんだが、それよりちょっと気になる事があってな』 甲がパソコンに写した複雑な面持ちを知ってか知らずか、ボイスチャットの相手は少し重い声色に変わる。 「気になるって、もしかして犯行に使われた武装神姫の事ですか、“ファナティック”さん?」 甲は画面の向こうの低い電子音の主、ネットハッカー“ファナティック”に問いかける。“彼”はハッカーとは言え通常のそれとは毛色が違い、メーカー等関係者への有用な情報提供、ネットに漂う違法神姫サイトのクラッキングなど、MMS、特に神姫を守護する存在として有名だった。甲自身も研究の支援を受けた経緯があり、“彼”には無二の信頼を寄せていたのだ。 『いや、それを破壊した者の事だ。お前の神姫、確かロウ、と言ったな』 「ええまあ。ってロウがどうかしたんですか?」 『そのロウが、犯人の神姫を破壊した』 「へ!? ロウが!? そういえば庭に何か居たとか・・・でも何も無かったしなぁ・・・」 『それは私が回収した。犯人を追跡する途中で、その現場を目撃したんだ。どうもお前の家に盗みに入る所を、ロウが阻止したらしい』 「うちに盗みに? 本当に入ってたのかよ・・・」 『問題は其処じゃない。その神姫が、“自分の同類である神姫を何の躊躇いもなく破壊した”と言う事だ』 「・・・どういう、事ですか? 大体ロウはそんな凶暴な訳ないし・・・」 『その神姫は、“神姫を認識していない”。認識していなければただの人形と同じように“壊せる”。それどころか下手をすれば人間にも危害を加える可能性がある』 「う、嘘でしょ!?」 思わず甲は画面にかぶりつく。 『その神姫は、論理プロテクトが外れている可能性がある。いや・・適応されなくなった、とでも言った方が正しいか。確かその神姫は、自分の事を“男”と思っていると言っていたのだったな?』 「変な話だと思うけど、別にいっかと思ってたんですが」 『・・・普通はもっと怪しむがな。ともかく、そいつにお前は「留守中の家を守れ」と言ったのだったな』 「ええまあ、犬だし、昼間うちは蒼とロウしかいないから、家を守るのはお前の役目だって言ったけども確か」 『つまりはその“家を守る”為なら誰を傷つけても何とも思わないという事だ』 「そんな! そんな事、出来る訳・・・」 『“人間”ならば家族を守る為になりふり構わず、なんて事は普通だろう? いや、もっと残酷な手段であろうと日常茶飯事ではないか? “G・L”に感染しているとすれば、そんな事も有り得るんだろうな』 「へ? “G・L”って何のことで?」 『後で話す。まずは確認してからだ。今からその神姫に会う』 「ロウに会うって・・・」 『お前の家が近いと判ったからな、もう家の近くに来ている。もうすぐ・・・』 「もうすぐ・・・ 来たわね」 塀の上を歩いて来る影を見つけ、アニーはボイスチャットを一旦保留する。【玉座】を操作して、緩い速度で、その影へと近づく。 「ガッコってとこ、おもしろそーだな、カンナもいるし。もっといたかったけど、でもカンナがかえれっていうし・・・」 「はあい、あなたがロウ君ね」 「? あんただれだ? ロウとおんなじか? おんなじみたいなにおいがする」 「・・ふうん、自覚もあるんだ。それにジャミング無しでも“2次感染”もしない、本物ね、“G・L”だわ」 「だから、あんただれ?」 「ああ、ごめんなさい。あたしはアニーちゃんって言うのよ。あなたに大事な事を教えに来たのよ」 「え!! それってセンセってやつか! ガッコでいろんなことおしえてくれるひと!」 「先生? まあ、そうとも言えるかもね」 「やったー! これでおれもガッコにかよえる~!!」 「え!? いや、そういう事じゃないんだけど・・・」 「そうすれば、ずっとカンナといっしょだ!」 彼女、いや彼の名はロウ。それは「狼」ではなく、「浪」でもなく、「桜」でもなく、「Law」でもなければ、「Low」でもない。「ろー」、それはただ家族の為にある名。 ・・・“男”としての誇りに満ちた名。 “女性”を失い、同族を握り潰し、そして己が身すら省みる術を知らない。だが、家族があり、誇りがあり、・・・そして“愛するもの”が居る。 その“心”の何処が、劣ると言えるか? その心の何処が、狂っていると言えるだろうか? 答えを出せる“人間”は居ない。 ―第1章 狂犬 終― 目次へ